あのとき志倉は、俺が助けたことで目立ってしまったことを相当嫌がっていたけれど、それはこの状況が容易に想像できたからなんだろう。
 自分のせいで志倉にいらぬ関心が集まってしまったことが、心底嫌だ。
 誰の関心も鬱陶しくて仕方ない。これがただの思い過ごしだと思えたら、どんなにいいことか。
 朝のHRが始まるまで机に突っ伏していると、やる気のなさそうな担任が時間ギリギリに教室に入ってきて、淡々と生徒に呼びかけた。
「明日から夏休みに入るが、課題はしっかりやってくるように。受験組は気を抜くなよ。以上」
 教師の号令を最後に、一学期が終わった。
 ちらっと志倉の方を見ると、彼女は誰かからメッセージが来ているのか、スマホをずっと触っていた。
 夏休みに入る前に、何か一言でも彼女に声をかけたいと思った自分がいる。
 バカだ。たった二か月見なくなるだけだというのに。
 それに、俺が彼女との距離を縮めるためにかけていい言葉なんて、ひとつもない。
「あ、成瀬ー。このあと何人かでカラオケ行くんだけど、こない?」
 帰ろうとリュックを肩にかけたところで、クラスメイトの南が話しかけてきた。
 モデルをやっているのかなんなのか知らないが、学校内で彼女のことが話題にあがることは多いらしい。
「いや、俺はいい」
「なんで? 部活もう辞めたんでしょ?」
 クラスの誰もが触れないようにしている話題に堂々と触れられるのは、南の性格の問題なのだろうか。
 何人かの動揺した心の声が聞こえてきたが、俺は表情を崩さずに「別に俺がいなくてもいいだろ」と答える。
「別によくないから誘ったんですけど?」
「そういうのいいから」
 俺は南の言葉をサラッと流して、教室から去った。
 彼女の俺に対する好意はずいぶんと前から漏れ聞こえていたけれど、それはたんに俺が靡かないからムキになっているだけだろう。

 足早に校舎を出ると、じりじりと頭皮を焦がすような太陽の光に照らされた。
 ……暑くて、頭が朦朧とする。
 南と話している間に、志倉はいつの間にか帰ってしまっていた。
 最後に見たのは、いつも通り儚げなうしろ姿だけだった。
「あ……」
 しまった。ぼうっとしたまま歩いていたら、体が勝手に部活動の場所に向かっていた。
 第二グラウンドは、裏門の近くにある校内でも一番大きいグラウンドだ。