そんな疑いの気持ちが皆の瞳の奥に見え隠れしている気がして、少しも顔をあげることができなかった。
 私は……、ゆっくりでも一歩進みたいと思って、今日この日を迎えたはずなのに。
 小中学生のころから、ずっと胸を縛り続けている呪いの言葉が、また浮かび上がってきてしまった。
 『人の視線が怖い。消えちゃいたい。いっそ――透明人間になりたい』
 誰も恥ずかしい私を見ないで。見つけないで。笑わないで。
 そう願ってばかりいた、幼いころの記憶が、私の喉を太い鎖で縛りつけている。
 そこまで回想して、私はようやくハッとした。
 隣にいる成瀬君には、今この感情も、全部読まれてしまっているのだ。
 面倒な人間だと、つまらなく暗い人間だと、思われただろうか。
 ……恥ずかしい。こんな感情、読まれたくない。聞かないでほしい。
 恐る恐る彼のほうを向くと、成瀬君は予想外の言葉を口にした。
「消えてもいい」
『え……』
 成瀬君は、何かを願うような切実な表情で一言そう言い放って、私の濡れた手を握りしめた。
 手を繋ぐというより、ほとんど掴むような形だけど、彼の体温が直接伝わってくる。
「たとえ志倉が透明人間になって消えても……、俺なら見つけられるから、いいよ」
『成瀬君……?』
「志倉の感情をたどって、見つけに行くから」
 そんなたとえ話を、どうしてそんなに苦しい声で言うの。
 見つけに行くだなんて、どうしてそんな言葉をくれるの。
『なんで、成瀬君はいつも……』
 動揺の中で、うっかり彼に語りかけてしまう。
 ずっと思っていたことなんだけど、どうして、彼はときどき私の前ではこんなに弱いのだろう。
 何もかも持っていて、学校中の憧れの人なのに。私が持っていないもの、彼は全部持っているのに。
 ときどき私と共鳴するように悲しんでくれるのは、ただ心が読めるから? それとも、私と似たような経験をしたことがあるから? 私と同じように、“消えてしまいたい”と思ったことがあるから……?
 答えてほしいよ、成瀬君。
 しかし、胸の中で唱えたその質問に、成瀬君は答えてくれなかった。
 どれも違うのかもしれないし、全部当たっていたかもしれない。
 彼の痛みは彼だけのものだから、私もそれ以上は深追いしなかった。
『成瀬君、お願いがあるの』
「ん? なに?」