衝撃で気づくのが遅くなったけれど、茹でたばかりのタピオカはとても熱く、それが半分くらい自分の腕にかかったせいで、真っ赤になっていた。
　でもそんなこと、今はどうでもいい。
　私も不注意だったと謝りたい。そして、解決策を一緒に考えたい。
　だけど、緊張で吐き気と冷や汗が止まらない。
「なんか、志倉さんがこぼしたっぽい……？」
「いやー、バカ男子がぶつかったんでしょ」
「一旦お店閉じる？　どうする？」
　クラスメイトの、小声での話し声がかすかに聞こえてきて、ますます喉がしまっていく。
　私のせいじゃない。でも、私に声があれば、男子に声掛けして、事前に防ぐことはきっとできた。
　今、無力な私にできることは、ひとつしかない。
　私はすっと手を開き、そろえた指を上から下へ下ろしながら、同時に頭も下げる。
　手話で「ごめんなさい」のポーズをした。何度も……何度も。
　ごめんなさい。声が出なくて、役に立てなくて、ごめんなさい――。
　怖くて、顔をあげることができない。思考が停止して、解決策も思い浮かばない。
　なんとかしたい。なんとかしたいのに――。
「落ち着け、志倉」
　手話をする指を、誰かが大きな手で包み込んだ。
　私は驚きながら、すぐに顔をあげる。
　そこには、いつもどおり無表情な成瀬君がいた。
「お前のせいじゃないことも、責任を感じていることも……全部分かったから」
　落ち着いた声でそう言われて、私は不覚にも一瞬泣きそうになってしまった。
　彼のその一言で、クラス内のピリッとした空気が嘘みたいにほぐれていく。
　今、この状況で、自分の気持ちを的確に分かってくれる人がいる。それがたったひとりでも、こんなに気持ちが心強くなるだなんて、私はなんて単純な人間だ。
　私は今きっと彼の前で、情けないほど安堵に満ちた顔をしてしまっているんだろう。
　成瀬君は、そんな私を数秒見つめてから、クラスのみんなに冷静に呼びかけた。
「とりあえず片づけからやろう。志倉と俺は用務室からモップ取ってくるから、その間掃除はできることやっておいて。お店はいったん在庫ある分だけテイクアウトにして、再開できそうになったら店内も受付可にしよう。今教室内にいるお客さんには飲み終わるまでいてもらってもいいってことで」
「わ、分かった！」