店内が混み合ってきて、端っこにあるこの調理場まで圧迫されるようになってきたのか。火を扱っているので気を付けて作業しないと……。
 なんて思っていると既定の茹で時間が過ぎ、私はぷるぷるになったタピオカを大きなお玉で掬って丁寧にざるにあげる作業を繰り返していく。
 なんとか全部、一粒も落とさずにざるにあげられた――安堵したそのとき、突然机を運んでいた男子が調理場の机にぶつかってきた。
「うわっ、やべっ……!」
 どうやら机の位置を調整しているうちに、私の存在に気づくことなくぶつかってしまったようで、そのせいでタピオカのざるが揺られてひっくり返った。
 プラスチックのざると、ゆであがったタピオカは、騒音を立てることなく静かに散らばりゆっくりと床に広がっていく。
 どうしよう……。
 私は瞬時にタピオカの茹で時間が三十分かかることを考え、並んでいるお客さんに迷惑をかけてしまうことを察した。
 何も声が出せない私は、青ざめた顔でそのタピオカを見つめることしかできない。
 ぶつかってきた男子も同じなようで、「やっべ……」と声をあげたまま何をどうしたらいいのか考えあぐねている様子だ。
 周りにいたお客さんがざわつきだして、クラスのみんなもタピオカが床に散らばっていることに気づいた。
 受付をしていた南さんがこっちに駆け寄り、大声をあげる。
「ちょっと何これ! どうしたの? オーダー溜まってるのに!」
 南さんの言葉に、男子は気まずそうに頭をかいて、小さな声で「ごめん」と謝っている。
 私も一緒に謝ろうとしたが、表情やジェスチャーで伝えることしかできない。
 どうしよう……という不安な気持ちがガスのようにもくもくと胸の中で広がり、冷汗が浮かんでくる。
「どうせふざけて、志倉さんにぶつかったんでしょ!」
「ち、ちげぇよ! 席増やそうとして準備してたら勢いあまって……。志倉さんも見えてたなら危ないよとか注意してくれれば……あ」
 男子はそこまで言いかけて、気まずそうな顔で口を手で押さえた。
 南さんも同じような表情をして、男子の肩をバシッと叩いている。
 “地雷を踏んでしまった”というふたりの表情を前に、私はどんな顔をしていたらいいのか分からなくなる。