傍から見たら成瀬君はひとりごとを言っているように見えているんだろう。それも含めとても不思議な体験をし、私は目をぱちくりとさせる。
 彼は、本当に、人の心が読めるんだ……。
「能力の話、どこまで聞いてみたい?」
『えっと……このまま心で会話を続けていいのでしょうか……』
「いいよ。俺がずっとひとりごと言ってるみたいになるけど」
『ですよね……』
 能力のことで聞いてみたいことなんて、きっとたくさんある。
 だって今までそんな人がこの世界に存在するなんてこと、考えてみたこともなかったから。だけど急にそんなことを聞かれると、何から聞けばいいのか分からない……。
 私が困惑していると、成瀬君はそんな私の気持ちを読んで説明を始めてくれた。
「この能力は遺伝性で、俺の家系にも同じ能力者がいた。今生きている中では俺しかいないけど」
『そ、そうなんだ。なんかファンタジーみたいだね……』
「教室くらいの範囲内だったら、少し曇った感じで、心の声が聞こえてくる」
『そんなに広範囲まで聞こえるんだ』
「寝てたり音楽聴いてるときは聞こえない。それに、一斉に聞こえてくるから、ほとんど雑音みたいなもんで、もうだいぶ聞き流すことに慣れたけどな」
『なるほど、それでいつも興味なさげな顔をしているんだ……』
「いや、それは単純に俺の性格だな」
『ご、ごめんなさい……』
 なんだか少し地雷を踏んでしまった気がして、私はすぐに謝った。けれど、成瀬君は全く表情を変えずに、「なんで謝ってんの?」と聞いてきた。
 話を聞く限り、ずいぶんと長い間その能力と向き合ってきたみたいだけれど、今までにバレそうになったことはないのだろうか。
 そう思い、改めて質問を心の中で唱えると、成瀬君はひとことだけ答えた。
「ない。あったとしても、無かったことにできる」
『え……?』
「そういう、“救済処置”みたいなもんがなかったら、俺は今頃解剖とかされてるかもな」
『救済処置……』
 それがなんなのかは、彼は教えてくれそうには無かったので、私もそれ以上聞かずに黙っていた。
 そうか、彼以外にも、そんな能力を持った人がこの世界にいるかもしれないんだ……。
 だとしたら、バレたときの対処方法がなければ、たしかにこの世界で生きていくには難しいことがあるのかもしれない。