一気に彼のことを遠くに感じていると、南さんはにっこり笑って、「成瀬って意外と真面目なんだ?」と茶化すように言い放ってから、突然私に視線を向ける。
 私はドキッとして、思わず俯いたが、つむじに向かってひしひしと痛い視線を感じ取った。
「志倉さん……だっけ? 成瀬と最近仲良し?」
 私はその言葉に、とっさにふるふると首を横に振る。
 当たり前だけど、仲良しなわけじゃない。成瀬君はできる人だから、できない人をほっとけないだけだ。
「もしかして、成瀬となら話せるの?」
 そんな訳ない。どうしてそんな風に思うのか。
 南さんの真意がわからないまま、私は再び、首を横に振る。
 成瀬君が、そのどこか緊張感漂う空気に耐えられなくなったのか、何か言いかけたその瞬間、南さんは一言無邪気に言い放った。
「いいね、その、守ってあげたくなる感じ?」
「おい」
 ――たった二文字。だけど、とてつもなく機嫌が悪そうなその低い声は、あたりの空気をピリッとさせるには十分だった。
 成瀬君のその声に驚き顔をあげると、南さんも目を丸くして、彼のことを見つめている。
「無駄口たたかずに、持ち場戻れよ、南」
「……はーい、成瀬先生」
 しかし、その張り詰めた空気感は、南さんの気の抜けた返事ですぐに崩れた。
 彼女は敬礼のポーズを取ってその場を和ませてから、他の班の元へ向かう。
 さっき、南さんが言いかけた“守ってあげたくなる感じ”というのは、“か弱いアピールしている感じ”だというニュアンスであることは、彼女の話し方から私でもなんとなく分かった。
 自分は、“弱い人間”だと甘えている――。
 それが周りの皆をイラつかせていることは、十分分かっている。今までも何度も経験してきた。
 『病弱アピールをするな』、『本当は話せるくせに』。実際に面と向かって言われたこともあるし、そう思っているだろうと、なんとなく感じ取ったことも多々ある。
 甘えていると思われていることは、分かっている。だからずっと、保健室で静かに登校してきた。
 私が私を一番許せないよ。この七年間、ずっと。
 でも、小学生の時の過去が私のことをずっと縛って、何をどうしても喉に力が入らないんだ……。
 自分でもどうしようもない痛みを、他人に分かってもらうことはきっと人間には不可能だ。