彼の行動に戸惑いながらも、何も言わずにぺこっと頭を下げると、冷たい言葉が振ってきた。
「ああいうときは、空気読めよ」
 あ、そういうことか……。
 その尖った言葉に、私は少ししゅんとする。
 私だって、空気を読んで交換してあげたかったけれど。
 膝上で制服のスカートをぎゅっと掴んで、悔しい気持を静かに飲み込む。
「あの班のままでいたら辛いの、自分だろ」
 え……?
 思いがけない言葉に驚くと、成瀬君はパッと私から目をそらして、小道具班の招集をかけていた。



 班が決まってから一週間が過ぎ、放課後の時間を使って、週に一回準備を進めることになった。
「成瀬、ペンキ持ってきたぞー」
「そこ、スペース空けておいたから置いといて」
「このあと骨組み作り組と、色塗り組に分かれるんだっけ?」
「そう。その方が早く終わる」
 普段多くを話さないくせに、成瀬君はサラッと人をまとめることが上手い。
 そのままの流れで早速小道具づくりが始まったが、あっという間に作業分担がされ、私は成瀬君と一緒に看板の下地をミントグリーン色に塗る役目になった。
 新聞紙を敷いた床に直接座って、木材でできた看板に色を塗る準備を進める。
 成瀬君が、「ミントグリーンって何色を混ぜたらいいんだ?」と聞いてきたので、私は緊張しながらも、そっと絵筆を取り、ぐるぐるとパレット上で色を混ぜていく。
 少なめのブルーとイエローを混ぜて、そこにホワイトを足して淡さを出すと、ミントグリーンができる。
「へぇ、ブルーが必要なんだ」
 感心したような成瀬君のその声に、不思議と他の小道具のメンバーも周りに集まってくれて、「もうちょっと淡くしたい」等と指示を出してくれた。
 私は言われたとおりにホワイトを足して、ぐるぐると色を混ぜていく。
 丁度いいと皆に言われたところで、私はほっとしたようにふぅとため息をついた。
 今、初めてこのクラスの人と、一瞬だけコミュニケーションが取れた気がする。それを少しだけ嬉しく思っていると、成瀬君が突然私の髪に触れた。
「髪、危ない」
 無駄に長い髪の毛が、ペンキの中に漬かりそうになっていたのだろう。
 突然髪の毛に触れられて驚いたが、成瀬君も少し焦っている様子で、私はその反応にさらに動揺してしまった。