「バカ南、声でかいって」
小声でそんな会話が聞こえてきて、きゅっと胃が痛くなる。
二人の気遣ったような視線が痛くて、どっと汗が吹き出てくる。
交換しましょうか、と、たった一言伝えればいいだけなのに、色んなことを考えすぎてしまって文章がまとまらない。
必死でスマホにメッセージを打ちこもうとするが、学校の中だと言葉を打つ動作すら不思議と遅くなってしまうのだ。
今この瞬間、“聞こえないふりをしてスマホをいじっている”と思われたらどうしよう――そんな不安すらよぎり、ますます指先が固まってくる。
フリック操作なんていつも家ではたやすくできるのに、どの文字がどこにあるのか、頭の中が真っ白になって見つからない。
焦りの感情でいっぱいになっていると、ふと突然、視界が暗くなった。
「その紙ちょうだい」
ぶっきらぼうな言葉が頭の上に振ってきて、驚き顔をあげると、そこには成瀬君がいた。そして、私が隠すように持っていたくじを彼は強制的に奪い取る。
そのくじを持ったまま、成瀬君が南さん達のそばによると、彼女たちは一気にテンションがあがった様子になる。
「南。小道具班のくじ見せて」
「え、なになに突然。成瀬はなんだったの?」
「小道具」
「え、成瀬、私と一緒じゃん。よろしくね!」
南さんは、さっきまでの面倒そうな表情とは反対に、パッと明るい表情になる。
しかし、成瀬君はそんな南さんの言動に一切反応せずに、私が持っていたくじと南さんのくじを取り替える。
南さんは困惑したような表情を浮かべ、小さく「え……?」と声を漏らしたが、彼は一切顔色を変えずに、当然のように“お願い”をした。
「これと変えて」
「え、何これ、誰のくじ……」
「そっちの方がお前も気楽だろ。よろしく」
戸惑っている南さんの反応をまるで無視して、成瀬君は再び私の元へやってくる。
何に緊張しているのかは分からないけれど、バクンバクン、と心臓が大きく高鳴っている。
俯いたまま固まっている私の机の上に、成瀬君が無言で“小道具”と書かれた紙を置いた。
南さんのくじと引き換えに、私は成瀬君がいる小道具チームに移動することになったのか……。
なぜ、そんな面倒なことを成瀬君がしたのか、正直全く分からないが、助かったことは事実だ。
もしかして、困っている私を見て助けてくれた……?
小声でそんな会話が聞こえてきて、きゅっと胃が痛くなる。
二人の気遣ったような視線が痛くて、どっと汗が吹き出てくる。
交換しましょうか、と、たった一言伝えればいいだけなのに、色んなことを考えすぎてしまって文章がまとまらない。
必死でスマホにメッセージを打ちこもうとするが、学校の中だと言葉を打つ動作すら不思議と遅くなってしまうのだ。
今この瞬間、“聞こえないふりをしてスマホをいじっている”と思われたらどうしよう――そんな不安すらよぎり、ますます指先が固まってくる。
フリック操作なんていつも家ではたやすくできるのに、どの文字がどこにあるのか、頭の中が真っ白になって見つからない。
焦りの感情でいっぱいになっていると、ふと突然、視界が暗くなった。
「その紙ちょうだい」
ぶっきらぼうな言葉が頭の上に振ってきて、驚き顔をあげると、そこには成瀬君がいた。そして、私が隠すように持っていたくじを彼は強制的に奪い取る。
そのくじを持ったまま、成瀬君が南さん達のそばによると、彼女たちは一気にテンションがあがった様子になる。
「南。小道具班のくじ見せて」
「え、なになに突然。成瀬はなんだったの?」
「小道具」
「え、成瀬、私と一緒じゃん。よろしくね!」
南さんは、さっきまでの面倒そうな表情とは反対に、パッと明るい表情になる。
しかし、成瀬君はそんな南さんの言動に一切反応せずに、私が持っていたくじと南さんのくじを取り替える。
南さんは困惑したような表情を浮かべ、小さく「え……?」と声を漏らしたが、彼は一切顔色を変えずに、当然のように“お願い”をした。
「これと変えて」
「え、何これ、誰のくじ……」
「そっちの方がお前も気楽だろ。よろしく」
戸惑っている南さんの反応をまるで無視して、成瀬君は再び私の元へやってくる。
何に緊張しているのかは分からないけれど、バクンバクン、と心臓が大きく高鳴っている。
俯いたまま固まっている私の机の上に、成瀬君が無言で“小道具”と書かれた紙を置いた。
南さんのくじと引き換えに、私は成瀬君がいる小道具チームに移動することになったのか……。
なぜ、そんな面倒なことを成瀬君がしたのか、正直全く分からないが、助かったことは事実だ。
もしかして、困っている私を見て助けてくれた……?