俺は十七歳にして、余生僅かな曾祖父と同じ気持ちになってしまった。
ああ、早く透明人間になって、誰も俺を気にしない世界で、自由に生きてみたい。
汚い感情も、醜い感情も、全部全部透けて見えるこの半透明の世界で、俺はあと何年生きていくのだろう。もう、絶望しかない。
こんなゴミのような世界で……柚葵が俺を忘れた世界で、もう誰とも心を通わせられる気がしない。
「ねぇねぇさっき、志倉さんが駅で大きな声出してるの見たんだけど!」
雪でただでさえ騒々しいというのに、教室に入ってきた女生徒が開口一番にそう言い放った。それに驚き、俺は思わず聞き耳を立ててしまう。
「うそっ、じゃあ家以外で話せないってやっぱり嘘じゃん。ていうかなんて言ってたの?」
「なんか、“待ってて”とか言ってたような……。ていうか演技お疲れって感じだね。ねぇ、南もそう思うでしょ?」
急に会話を降られた南は、えっと驚いたような顔をしてから、「もう興味ない」と冷たく言い放つ。その反応がつまらないと思ったのか、話を持ち出した女子は南以外の人にも言いふらし始めた。
そうか、無事に、声が取り戻せたのか……。
だったら、よかった。本当に、よかった。
全身から力が抜けていくように、安堵の気持ちが広がっていく。
でも、柚葵に関する心無い会話がどれだけ聞こえてきても、もう俺の感情は何も動かない。彼女にしてやれることがないから。
そんな俺の様子を見て、南が何か言いたげにしていた。『なんで成瀬は、かばわないの』という怒りの声を聞かぬふりをして、俺は雪が舞い降りていく様子をただ眺める。
俺がどうにかできることだったら、もうとっくに何かしている。
そう、諦めの気持ちと戦っていたとき、突然ガラッと勢いよくドアが開いた。
……柚葵が、教室の中に入ってきた。
何か並々ならぬ決意を感じるが、タイミング悪く入ってきたせいで教室中の人が動揺し、感情があふれかえっているため、柚葵の心の声が拾えない。
なんだ……? なんであんなに、何かを決意したような、緊張した顔をしているんだ。
読み取れないから、皆、黙ってくれ。
「なになに、柚葵さんどうした……?」
「噂聞かれてたかな。ていうか、なんか暴れそう? 大丈夫そう?」
「さっきの会話聞こえてたんだよ、やっぱり」
言いふらした女生徒を中心に、ざわざわと動揺が広がっていく。
ああ、早く透明人間になって、誰も俺を気にしない世界で、自由に生きてみたい。
汚い感情も、醜い感情も、全部全部透けて見えるこの半透明の世界で、俺はあと何年生きていくのだろう。もう、絶望しかない。
こんなゴミのような世界で……柚葵が俺を忘れた世界で、もう誰とも心を通わせられる気がしない。
「ねぇねぇさっき、志倉さんが駅で大きな声出してるの見たんだけど!」
雪でただでさえ騒々しいというのに、教室に入ってきた女生徒が開口一番にそう言い放った。それに驚き、俺は思わず聞き耳を立ててしまう。
「うそっ、じゃあ家以外で話せないってやっぱり嘘じゃん。ていうかなんて言ってたの?」
「なんか、“待ってて”とか言ってたような……。ていうか演技お疲れって感じだね。ねぇ、南もそう思うでしょ?」
急に会話を降られた南は、えっと驚いたような顔をしてから、「もう興味ない」と冷たく言い放つ。その反応がつまらないと思ったのか、話を持ち出した女子は南以外の人にも言いふらし始めた。
そうか、無事に、声が取り戻せたのか……。
だったら、よかった。本当に、よかった。
全身から力が抜けていくように、安堵の気持ちが広がっていく。
でも、柚葵に関する心無い会話がどれだけ聞こえてきても、もう俺の感情は何も動かない。彼女にしてやれることがないから。
そんな俺の様子を見て、南が何か言いたげにしていた。『なんで成瀬は、かばわないの』という怒りの声を聞かぬふりをして、俺は雪が舞い降りていく様子をただ眺める。
俺がどうにかできることだったら、もうとっくに何かしている。
そう、諦めの気持ちと戦っていたとき、突然ガラッと勢いよくドアが開いた。
……柚葵が、教室の中に入ってきた。
何か並々ならぬ決意を感じるが、タイミング悪く入ってきたせいで教室中の人が動揺し、感情があふれかえっているため、柚葵の心の声が拾えない。
なんだ……? なんであんなに、何かを決意したような、緊張した顔をしているんだ。
読み取れないから、皆、黙ってくれ。
「なになに、柚葵さんどうした……?」
「噂聞かれてたかな。ていうか、なんか暴れそう? 大丈夫そう?」
「さっきの会話聞こえてたんだよ、やっぱり」
言いふらした女生徒を中心に、ざわざわと動揺が広がっていく。