私のそばにいる意味は、ただの“贖罪”。同情よりも、重いもの、ということ。
 同情されている面もあることは重々分かっていたけれど、改めて面と向かって言われるとずしんとくる。
「この二週間、ずっと考えてた。そんな理由で柚葵のそばにいていいのか」
『それは……』
「いつか柚葵を傷つけることにならないかって」
『好きって言ってくれたのは、嘘……?』
 すべての言葉を遮ってそう問いかけると、成瀬君の琥珀色の瞳が一瞬揺れた気がした。でもそれは、本当に一瞬のことだった。
「俺は、自分を許してもらうために、柚葵に近づいた。ただの情と恋愛感情を履き違えていた」
『本当に……?』
「……ああ」
 そうか。成瀬君が私に構ってくれたのは、全部罪を償う意識からだったのか。
 笑って流さなきゃ。そう思ったけれど、口角が糸で横に引っ張られたかのように、突っ張って動かない。笑えない。
 でも、成瀬君は何度も何度も私のことを助けてくれた。
 もう自分のことを許せるって、背中を押してくれた。
 あの成瀬君の全部が嘘だとは、とても思えない。同情だけとは、思いたくないよ。
『でもあの時、成瀬君は……』 
 真実を確かめたくて顔をあげると、成瀬君はすぐに言葉で私の心の声を遮る。
「俺も、美園も、結局同じだ。美園も、最初は罪悪感拭うためだけに柚葵と一緒にいたんだろ。美園は、自分がいじめられる前に……人をいじめてたことがあったからな」
『なんで、そんなこと言うの……?』
「みんな美園がいじめられてざまあって思ってたときに、唯一普通に接してくれたのが柚葵だけだったんだろ?」
 目の前にいるのは本当に成瀬君なんだろうか。
 まるで、小学生の時の成瀬君――岸野君、みたいだ。
 人を傷つけることばかり言う彼に、心の底から悲しくなる。まるで私に嫌われようとしているかのように、成瀬君は冷たい言葉を言い放つ。
「柚葵も、美園に同情でそばにいられること、うすうす気づいていたんだろ」
『やめて』
 ペチッと、頬を叩く音が室内に響く。
 私は気づいたら、成瀬君の頬を叩いてしまっていた。
 汚い言葉を吐く成瀬君をもう見ていたくなくて、大切な人を傷つけられたくなくて。
 時が止まったかのように、冷たい空気が私たちの間を流れる。
 ハッとして、すぐに頬から手を離そうとしたけれど、成瀬君は私の手首を掴んで顔に押し当てた。