冷帝は通わない、美琪と惠燕とは性格が合わない、星羽は読書好きであまり一人の時間に立ち入ってはいけない、で、麗華の後宮でのやることは早々に底をついた。そこで退屈しのぎに依林を相手に星読みを始めた。依林は星読みを受けるのが初めてということで、大変わくわくした様子で麗華の前に座って居た。

「麗華さまは珍しいご趣味をお持ちなんですね」

星読みの盤とサイコロを取り出した麗華に依林はそう言った。咄嗟に、物の本で見かけたのよ、と言うと、ますます星羽さまとお話が合いそうですね、と微笑まれた。

星羽が手にしていたのは、そんな俗っぽい本ではなかったかと思う。文字がびっしりで、難解そうだった。そんなことを思い出しながら、依林の星を読む。星の盤にサイコロを振り、サイコロの目と星の方角とを照らし合わせて、示された運勢を告げる。

「天頂に吉星ありだわ。依林はこの後宮での仕事で成功するわよ」

「まあ、本当ですか! ではますます麗華さまにお仕えしなければなりませんね」

にこにことそういう依林に、良い主でありたい、と麗華は思った。

二人でキャッキャと依林の運勢について語っていると、部屋の扉がトントンと叩かれ、宦官の声がした。

「失礼いたします」

扉を開けて部屋の中に入って来たのは、陛下の側付きの宦官だった。彼は麗華に対して深く礼をした後、恭しくこう述べた。

「麗華さま。午後から陛下がおいでになります」

(は!?)

一瞬、彼の言うことが理解できなかった。依林からは美琪と惠燕さえ、未だ陛下に目通りが叶っていないと聞いていた。それが、彼女たちをすっ飛ばして何故麗華の所に?

依林の方を見ると、彼女は満面の微笑みを湛えて、ようございましたね、と嬉しそうだ。

「へ……、陛下がおいでになるなら、何かお茶菓子でも用意しなければいけないかしら? ああ、お茶だって、私が飲んでいるお茶しかない……っ」

麗華がそう慌てると、宦官は冷静な声で、それは必要ありません、と応えた。

「……えっ? でも、陛下をおもてなしせずにお迎えするだなんて、出来ないです……」

「陛下はご自分のお住まいの宮殿以外では何も口にされません」

宦官の言葉に、依林がそっと耳打ちをした。

「後宮も、毒殺の現場になることがあるからですよ」

思いもよらぬことを聞いて、麗華は驚いた。自分が呼び寄せた女性が自分を殺すかもしれないと思っているのか。自分を召し上げてくれた人に対してそんなこと、誰もしないだろうに。

「兎に角、麗華さまはそのままで陛下をお待ちください」

宦官はそれだけを言って、部屋を去った。麗華は困惑して、依林にこう尋ねた。

「……でも、形だけでもおもてなしした方が良いわよね……?」

依林も困ったように微笑むだけだった。