時間はあっという間に過ぎ去る。
夏休み直前総合復習テストまで、あと三日。
このテストは、俗にいう一学期の期末テストのようなもので比較的他の定期テストより簡単で高得点が狙いやすい。
だが、一年生の頃、定期テストの平均が平均点より少し上のほうだった僕は、一年生のはじめの頃の内容なんてすっかり抜けていた。
「えっと、ん? 借入金ってなに?」
「『入れる』って文字を消したら、借金だよね?」
「借金か……」
「うわっ~、忘れてるねぇ。前の学校で簿記の授業とってて良かったなぁ。この学校簿記必須科目なんだね」
「うん。それにしても、飯島さん。これ、クラスメイトに見つかったら面倒じゃない?」
「不知くん、なにかやましい事でもあるの? 大丈夫だよ。フツーにフードコートで勉強やってるでしょ。皆」
「まぁ……。そうだけどさ」
そんなシーンは小説の世界でしか知らない。
スターバックスという学生の間で有名なカフェに行くと、注文する時に呪文を唱えるとか、友達といると学生は必ずフードコートやマクドナルドにいるとかそんなの小説の世界だけだと思っていた。
僕らは下校中にフードコートでたこ焼きをつまみにしながら、勉強をしている。
「うん。貸借対照表の書き方あってるよ。合計線と締め切り線忘れちゃダメだよ」
「よし……。ありがとう。飯島さんって簿記得意?」
「んー、得意ってわけでもないけど、好きな科目ではあるかな。得意なのは英語。あ、もちろん英語も好きだよ!」
だから、土曜日に言っていた英語があんなに発音がよかったのかとここで違和感が結び付いた。
「不知くんは? 好きな科目とか得意な科目はあるの?」
好きな科目は分からないとしか言いようがない。
小説は好きだが別に国語が好きなわけではないし、数学は図形問題が嫌いで正直今の授業は受けたくない。
単位を落として、もし追試になったら小説を読む時間が減るから頑張っているけれど。
科学も現代社会も別に好きでも嫌いでもない。
得意な科目は、強いていうなら国語だ。
小説を読み始め、数年経ったら、その年から国語の成績が急激に伸びた経験がある。
小学校の頃から小説は読んでいたのだけど、その時はあまり上がらなかった。
しかし、中学校一年生の二学期頃から五段階評価の「5」を僕は取っている。
その他は「4」や「3」の成績が散らばっていた。
「別に……ないかな」
得意な科目を言っても自慢話になるだけなので、僕は言わない。
「へぇ……。意外。国語好きで得意だと思ってた」
「うん。小説読んでいるからそんなイメージ持たれるんだろうけど、小説読んでいる人イコール国語得意で好きな人じゃないからね。国語は好きなのかな。僕には好きとかそういう気持ちがあんまりよく分からない」
店内に流れていたBGMが聴いたことがある曲に変わった。聞き覚えのあるそれは、両親の世代に流行っていたバンドの結婚式の曲だと気がつく。
「不知くんって、恋とかしたことあるの? あ、別に答えたくなかったら答えなくていいよ。デリケートな事だし」
こういう時に配慮をくれるのは飯島さんの良い所なのだろう。
普通の人ならこの配慮をありがたく思うだろうけど、僕はそういう経験をした事もないから、恋愛小説でよくある好きになったら相手の事を一日中考えてしまうとか、恋焦がれて常識や理性を失うとかは表現としては好きだが、あまり理解できない。
「恋はしたことがない。恋愛小説好きだけどあんまり主人公の気持ちがよく分からない」
「そっか~。これからだよ。頑張れっ! あ、色々脱線しちゃったね。続き続き!」
飯島さんはそう言って、国語の問題集を開く。
簿記はさっきでキリのいい所まで終わったので僕も国語の問題集を開き、モクモクと解き始める。
今回やった国語はなぜか普段より簡単で解きやすかった。
夏休み直前総合復習テストまで、あと三日。
このテストは、俗にいう一学期の期末テストのようなもので比較的他の定期テストより簡単で高得点が狙いやすい。
だが、一年生の頃、定期テストの平均が平均点より少し上のほうだった僕は、一年生のはじめの頃の内容なんてすっかり抜けていた。
「えっと、ん? 借入金ってなに?」
「『入れる』って文字を消したら、借金だよね?」
「借金か……」
「うわっ~、忘れてるねぇ。前の学校で簿記の授業とってて良かったなぁ。この学校簿記必須科目なんだね」
「うん。それにしても、飯島さん。これ、クラスメイトに見つかったら面倒じゃない?」
「不知くん、なにかやましい事でもあるの? 大丈夫だよ。フツーにフードコートで勉強やってるでしょ。皆」
「まぁ……。そうだけどさ」
そんなシーンは小説の世界でしか知らない。
スターバックスという学生の間で有名なカフェに行くと、注文する時に呪文を唱えるとか、友達といると学生は必ずフードコートやマクドナルドにいるとかそんなの小説の世界だけだと思っていた。
僕らは下校中にフードコートでたこ焼きをつまみにしながら、勉強をしている。
「うん。貸借対照表の書き方あってるよ。合計線と締め切り線忘れちゃダメだよ」
「よし……。ありがとう。飯島さんって簿記得意?」
「んー、得意ってわけでもないけど、好きな科目ではあるかな。得意なのは英語。あ、もちろん英語も好きだよ!」
だから、土曜日に言っていた英語があんなに発音がよかったのかとここで違和感が結び付いた。
「不知くんは? 好きな科目とか得意な科目はあるの?」
好きな科目は分からないとしか言いようがない。
小説は好きだが別に国語が好きなわけではないし、数学は図形問題が嫌いで正直今の授業は受けたくない。
単位を落として、もし追試になったら小説を読む時間が減るから頑張っているけれど。
科学も現代社会も別に好きでも嫌いでもない。
得意な科目は、強いていうなら国語だ。
小説を読み始め、数年経ったら、その年から国語の成績が急激に伸びた経験がある。
小学校の頃から小説は読んでいたのだけど、その時はあまり上がらなかった。
しかし、中学校一年生の二学期頃から五段階評価の「5」を僕は取っている。
その他は「4」や「3」の成績が散らばっていた。
「別に……ないかな」
得意な科目を言っても自慢話になるだけなので、僕は言わない。
「へぇ……。意外。国語好きで得意だと思ってた」
「うん。小説読んでいるからそんなイメージ持たれるんだろうけど、小説読んでいる人イコール国語得意で好きな人じゃないからね。国語は好きなのかな。僕には好きとかそういう気持ちがあんまりよく分からない」
店内に流れていたBGMが聴いたことがある曲に変わった。聞き覚えのあるそれは、両親の世代に流行っていたバンドの結婚式の曲だと気がつく。
「不知くんって、恋とかしたことあるの? あ、別に答えたくなかったら答えなくていいよ。デリケートな事だし」
こういう時に配慮をくれるのは飯島さんの良い所なのだろう。
普通の人ならこの配慮をありがたく思うだろうけど、僕はそういう経験をした事もないから、恋愛小説でよくある好きになったら相手の事を一日中考えてしまうとか、恋焦がれて常識や理性を失うとかは表現としては好きだが、あまり理解できない。
「恋はしたことがない。恋愛小説好きだけどあんまり主人公の気持ちがよく分からない」
「そっか~。これからだよ。頑張れっ! あ、色々脱線しちゃったね。続き続き!」
飯島さんはそう言って、国語の問題集を開く。
簿記はさっきでキリのいい所まで終わったので僕も国語の問題集を開き、モクモクと解き始める。
今回やった国語はなぜか普段より簡単で解きやすかった。