あれから、俺たちは個人でも蒼の事件や飯島の二重人格の件について調べることにした。

 飯島家は、ひっそりとした場所に建つ民家だった。

 インターホンを押して、返答を待っていると、声の低い女性の声が聞こえてきた。

『……どちらさまでしょうか』

「あの、高校時代起きた不知蒼君の事件について、飯島さんにお聞きしたいことがあるのですけど──」

 俺が言い切る前に、

『お引き取りください』

 とひとこと言われた。

 きっと、マスコミ等が押し寄せた時に、こんな感じで言い返したのだろう。

「違うんです! 俺は飯島さんの無罪を証明したくて!」

 そう言うと、沈黙が続いたインターホンから声がでた。

『……少々お待ちください』

 これはいけたのだろうか。

 俺は不安にかられながら、待っているとそこには五十代くらいの女性がでてきた。

 やつれているのか少し細くなっている。

「はじめまして。心崎輝と申します。不知蒼君の幼馴染みで、飯島結菜さんとは友人でした」

 俺が自己紹介をすると、女性は、少し驚きながら、

「……結菜の義母です」

 と答えた。

 彼女のご厚意により、俺は家を上がらせてもらった。

「……結菜さんが二重人格者であることは知っていますか?」

「ええ。もちろんです。ですが、誰も信じてくれませんでした」

「彼女には、もう一人の人格があるんですよね? それが長谷川……志音さんだと。あなたは長谷川さんとは面識がありますか?」

「長谷川は、私の親戚にいました。そこで生まれた子が志音で、彼女が5歳になるまでは一家に幸せが続いていました」

 ですが、と飯島の義母はひと呼吸してから、

「ある日、彼女の家に強盗が入りまして。そこで両親は二人とも死亡しました。幸いにも志音ちゃんは隠れていたので見つからず、駆けつけた警察によって保護されました。そして、親権は私たちが持ちました。私たち夫婦は子供がいないのです」

 淡々と告げられる事実。

 そして、少しずつ明らかになっていく長谷川の想い。

 少し、分かったのかもしれない。

「そして、現在に近づくにつれ、志音はまるで別人のように振る舞うようになりました。はじめは私たちの家に慣れていないのかと思っていましたが、そうではなく、彼女は本当に別人を作り出していたのです」

 飯島の事だろう。

「そして、彼女に名前をつけてあげなければならないと思った私たちは彼女に『結菜』とつけたのです。これは私たちが子供がいたらつけたかった名前です」

「それから、結菜と志音は人格交代を繰り返しながら、成長していきますが、結菜の人格の方が上手く社会に溶け込みやすいと志音は判断したのでしょう。それから、結菜の人格がメインの人格のようになっていました」

 知っていることを話終えたからか、飯島の義母は、ふぅとため息をつき、

「これが、私の知る全てです。どうか、結菜を少しでも救ってあげてください」

 深々と頭をさげた。

 この人にとって、きっと飯島は家族当然の存在なんだろう。

 きっと、長谷川も。

「僕らにおまかせください」

 俺は、笑顔で彼女に微笑んだ。