私のクラスは、活発な生徒が少ないクラスだ。隣のクラスは運動部の中でもかなり騒がしい人たちが集まっていて、授業中に笑い声や先生に怒られている声が聞こえてくるほど。

 学年は八クラスあるけれど、八組にうるさい人達を集めすぎたことで、この七組は静かになってしまったなんて先生が言うくらいだ。でも、静かめと言われる私のクラスでも比較的声の大きいと言うか、盛り上げ役の男子はいて、それが沖田くんだ。

「なぁ、溝谷お前俺と文化祭委員やってくれよ」

「俺、軽音部でバンドするから全然委員会出れねえけどいいの?」

「じゃあ駄目だ。めっちゃ仕事あるから」

「吉池はどう――ああ、生徒会だっけ」

「本当にごめん、むしろボランティア募集してるくらいだから」

 沖田くんは帰宅部だけど、スポーツ万能でクラスの人から一目置かれている。爽やかな短髪で、男子には「頼りになる奴」女子には「面白い」と人気者だ。古文を担当しているおじいちゃん先生は、「ガキ大将」と彼を呼んでいる。

 そんな沖田くんは文化祭委員を任されているけれど、彼と一緒に任されていた文化祭委員の戸塚さんは、親が転勤になったとかで、ちょうど先月転校してしまったのだ。

 沖田くんと文化祭委員をしたい女子生徒も、いるにはいるのだろうけど、雰囲気的にお断りの空気が出てしまっているのは、やっぱり文化祭委員の仕事が多いからだと思う。

 うちのクラスの出し物は、童話喫茶という絵本の世界をイメージした喫茶店をするとコンセプトが決まっているけど、委員はクラスをまとめて、喫茶店の準備を主導しなければならないのだ。自主性を重んじたいとかで、文化祭絡みのホームルームは先生は立っているだけ、というのが決まりになっているし、やりがいもありそうだけど大変だ。去年、隣のクラスでは簡単な展示に決まったのに、皆がまとまらず喧嘩をしたり、泣いてしまった子が出たらしいし。

 それでも文化祭で童話喫茶といかにも大変そうなモチーフが飛び出したのは、クラスの人気者である沖田くんが文化祭委員を担っていた、というのが大きいと思う。みんな、彼ならきっと文化祭を成功に導いてくれるはずだと、期待をしたのだ。

 私は、喫茶店という火を使う出し物で、真木くんが火災を起こさないかひやひやしていたし、今もしているけれど……。

 私は沖田くんが文化祭委員の相手を探すのを横目に、真木くんを自分の席に座らせ、自分も席についた。

 真木くんは窓際の席で、私は彼の隣の席だ。今まで同じクラスになることはあれど、座席ががっつり隣になるのは小学生以来で、最近は懐かしい気持ちで授業を受けている。

 二ヶ月おきにしている席替えは先週だから、しばらくは真木くんの隣の席だ。そしてもう一方の私の隣は、空席だ。どうやら転校した戸塚さんの席はこのまま教室に置いておくらしい。

 彼女と関わったことは無かったけれど、真面目でしっかり者で、真木くんをよく気にしていた印象だ。弟がいるからと、真木くんが何か零すと拭くのを手伝ってくれた。

 それにしても小学校の頃は、転校した人の座席は空き教室に置いていた。そして椅子とか机が異常にガタガタしていたり不具合があると、そこにある机や椅子と交換するように言われていたから、無人の座席がずっと教室にあるのは、なんだか見慣れない。