偶然ここを人が通りかからなかったから命拾いした、なんて思いながら僕も傘を閉じていると、チリンっ、とわずかに鈴の音が鳴った気がして。

後ろを振り向くと、自転車が僕たちの方へ向かっていた。


だから咄嗟に、


「危ないっ」


彼女の手を引いて、僕の方へ引き寄せた。

えっ、困惑した彼女は、声をもらして僕を見上げた。

その瞬間、シャーっと自転車が通り抜ける。


なんとか間一髪だった。


「……大丈夫?」


声をかけるけれど、無反応。


「おーい」


もう一度声をかけると、ハッとして、


「なっ、なに?」

「大丈夫って聞いたんだけど」

「え? あ、ああ、うん! だ、大丈夫」


突然ぎこちなくなる態度。いつもの三日月さんじゃない。

もしかして今、僕が手を掴んだのが嫌だったのかな……。


「……ごめん」

「え? な、なんで向葵くんが謝るの?」

「手掴んだの嫌だったかな…と思って」


咄嗟に掴んでしまったけれど、もし逆の立場だったら当然困惑してたと思うし。


「そっ、そんなことないよ! だって私、自転車気づいてなかったし向葵くんが引っ張ってくれなかったら私、ぶつかってたかもしれないから…」


口早に告げられた言葉には、僕を嫌がっているようには見えなくて、