まもなくして黄涼国は降伏し、この戦いは碧縁国の勝利となって終わった。
 国の財を吸い尽くした黄涼王と、公兎妃を騙った麗陽は流刑となり、真偽確かめず麗陽を公兎の娘として送り込んだ燕家も罪に問われることとなった。
 黄涼国は黄涼州となりて、碧縁国が治めている。だが黄涼王と異なり、税は下がり、民の扱いもよくなった。碧縁国の統治は民らを救ったのである。


 さて公兎の娘、月娥はというと。

「……月娥、お前の目に花堯の地はどう映っている?」

 月娥は碧縁国の宮城にいたはずが、碧霄に誘われて都に出ていた。ふたりは馬に乗って、都外れの小高い丘にのぼり、夕日を浴びながら景色を見渡している。
 そこからは、都の隣にある村も見えた。畑には(くわ)を手に働く農夫や、その子供たちがいる。子は元気に駆け回り、農夫はそれを眺めて楽しそうに笑っていた。
 これは碧縁国だけでない。黄涼州も少しずつ元に戻っている。流行病は静まり、国庫から食糧を分け与えたことで民らが飢えることもなくなった。

「ここは幸福だと思います」
「ほう。公兎の娘のお墨付きとは良いことだ」

 碧霄は笑った。村を眺めるその横顔は柔らかい。

「花堯には碧縁以外の国もある。つらい生活を強いられる者は多くいるだろう。お前の力を必要とする時はまた来るはずだ」

 そう告げて、碧霄は月娥に向き直る。いつぞやと同じように地に膝をつき、月娥の手を取った。

「俺はいずれ碧縁国の王となる。その時、お前を公兎妃として迎え入れたい」
「碧霄……それは……」
「お前が公兎の娘だからではなく、お前だからこそ妃として娶りたい。お前と共に、花堯が幸福に満ちていくのを見届けたい」

 その言葉に、月娥は微笑んだ。
 次代の王となる碧霄が忠誠と愛を誓う。月娥の手に口づけを落とす。手の甲がじわりと熱くなった。

「お前が俺を選び続けるよう、善政の王になると約束しよう。俺は、月娥とこの地を愛し続ける」

 彼が紡ぐ言葉に、偽りは感じられない。月娥はその場に膝をつき、碧霄を抱きしめた。


 燕月娥はまもなく公兎妃となる。その隣には、いずれ花堯平定を成し碧縁帝と名乗る曹碧霄の姿もあったという。

<了>