その夜。




「おや、東雲さん。今日はご子息もご一緒ですか?」





「ええ。普段は別の仕事をしているので顔を出さないものですから、今日は強制的に」






一颯は話しかけてきた議員に愛想笑いを浮かべる父の横で、ムッツリと唇を尖らせていた。
すると、耳に着けたインカムから汐里の声がする。
視線を動かせば、ウェイターに変装した汐里が楽しげに笑っていた。





『普段の愛想のよさはどうした?』





「……誰のせいだと思ってるんですか?」





『私だな。まあ、少し我慢しろ。《ヘビ》を引っ張り出すにはお前がいた方が都合がいい』






『意味不明なんですけど』





別の所でウェイターをしている瀬戸の声がするが、一颯は彼の姿を見つけられていない。
一颯には汐里が考えていることは大体検討がついている。
だが、それに《ヘビ》が食らいつくかは五分五分と言ったところだ。
その前に来るか、どうかだ。




すると、パーティー会場がざわりとざわつく。
その原因はすぐに明らかになる。
養父と血の繋がらない妹二人を亡くしたばかりの少年がいたからだ。
大人の政治家ばかりの会場に、まだ十代の少年がいるのは些か不自然に感じられる。
少年――可我士は一颯と久寿の姿を見つけて、近付いてきた。





「貴方は昼間の刑事さんですよね?何故、此処に……」





「これは私の息子なんだ。それより、この度はお悔やみ申し上げます」






久寿は可我士の疑問から一颯を庇うかのように言葉を被せる。
恐らく、久寿も汐里が考えていることが分かっているのだろう。
そうでなければ、嫌がる一颯を無理に連れ出したりしない。
何だかんだで、久寿は親馬鹿で心配性なのだ。





「本来ならば参加するのを見送るべきなのでしょうが、養父(ちち)ならば何があっても参加するだろうと思い……」






可我士の目にはうっすら涙が浮かぶ。
それが真実なのかを一颯は父の背中越しに、汐里は遠目から観察していた。
「《クロ》、だな」、インカムから汐里のそんな呟きが聞こえた。
刑事の勘、というべきか。
それとも、犯罪者を追い続けてきたことによる心理的なものというべきか。
一颯と汐里は可我士を放火犯、《七つの大罪》の嫉妬(invidia)と断定しつつあった。