紅白戦の日。珊瑚は紅白戦に出ない部員たちと一緒に居た。親衛隊の女の子たちは、推したちの事情を察していたのか、敵意の視線はあったが目立った嫌がらせはなかった。

ホイッスルが鳴って試合が動き出す。ボールをコントロールして相手ゴールに攻め入る二人は間違いなく神がこの高校に与えたもうた至高の二人だ。絶妙のコンビネーション、目を見ずとも通るパス、ゴールを割る技量。そして、岸田が山内に向ける笑顔、ゴールを決めた時に山内が岸田の頭をくしゃっとかき混ぜるその仕草と距離、何より二人の汗。どれを取っても最高の推したちだ。珊瑚は感涙しながらシャッターを切り続けた。

(ああああ、この世の至高の宝石たち……!! 神に導かれて出会った最高の二人……!! お別れするのは辛いわ……!)

それでもこの爽やかな汗たちやお互いに寄せる友情を汚してはいけないと思うから。だから珊瑚は最後の仕事だと思って、シャッターを切り続けた。むせび泣きながらシャッターを切り続ける珊瑚を、親衛隊を含め、部員たちは気持ち悪そうに見ていた。



家に帰って写真を整理して、岸田と山内の活躍ぶりを示す写真たちを一冊のアルバムに仕立て上げる作業に取り掛かった。どの写真にも推したちの輝かしい活躍が収まっていて、珊瑚は涙を流しながら写真をアルバムに収めていった、

(これは岸田くんが山内くんにパスを送ったところね。こっちはフェイントで相手をかわしたところ。こっちのシュートの瞬間も、良く撮れてるわ。そもそも顔面が圧倒的美で失敗のしようがない。流石私の推し……)

そっと写真を指でなぞる。やっぱり推しとはこういう壁(へだたり)なしで会ってはいけない。珊瑚の最近の学校生活は明らかに推しに近すぎた。だからあらぬ妄想をしてしまったのだ。きっとそうだ。

(この煩悩が消えるまで、私は岸田くんたちに会わない。最高の推しに、最高に美しいままで居て欲しいから……)

今までの写真のデータも、全部親衛隊に渡そう。未練がない方が、推し活を止められる。珊瑚は涙を流しながらアルバムを作り続けた。