珊瑚のその日撮った写真は親衛隊に没収された。岸田と山内に近寄ったから、だそうだが、あれは推したちが珊瑚のところへ来たのであって、断じて珊瑚が推しに会いに行ったわけではない。でも、珊瑚が自分に課している、「推しと同じ空間に存在しない」という戒律が守れなかったことは事実だったので、潔くデータは渡した。

そんなことがあったというのに、岸田はその後もちょくちょく珊瑚の前に現れた。曰く、

「珊瑚ちゃんは俺たちを見てるのに、ぎらぎらしてないのが良いよね」

とのことだったが、推しの写真を集めている珊瑚にとっては、岸田が珊瑚に会いに来ると漏れなく親衛隊にデータを没収されるので、良いことなしだった。

そんなある日。

「おい」

不機嫌そうな低音の声で珊瑚を呼ぶのは山内だ。山内は珊瑚を見下ろしてこう言った。

「最近雄平が後練にこないのは、お前の所為だな?」

氷点下の機嫌でそう言われて、滅相もございません! と否定した。

「わ……っ、私は遠くから岸田くんと山内くんを眺めていたいだけの、ただの埃です! 決して岸田くんの練習を邪魔しようなんて思ってません!」

っていうか、珊瑚に会いに来てくれるより、山内と後練しててくれた方が、よっぽど珊瑚のコレクションも増えるし、推したちにも迷惑かけなくて、win-winなのに!

内心、号泣の勢いでそう答えると、山内は不服そうに、でも、と言葉を継いだ。

「紅白戦が迫ってるのに、あいつ部活が終わると消えるんだ。今まで後練も欠かしたことのなかった奴が」

(あーーーーーー!! 相手の事を考える憂い顔、最高でっすーーーーー!! 顔が良いって、こういうことよねーーーー!!)

この状況で珊瑚が出来ることは一つしかない。紅白戦までの間、サッカー部の練習風景を撮るのを止めることだ。珊瑚は山内に訴えた。

「私っ、これから紅白戦までの間、山内くんたちの練習の邪魔はしません! だから練習を頑張って、絶対紅白戦、いい写真残しましょう!」

意気込んで言うと、山内は珊瑚の形相にぽかんとして、……それから、ふっと微笑んだ。

(…………)

すごく、素敵な笑顔だった。そんな顔を見せられて、珊瑚は静かに泣いた。山内を前に突然泣くという奇行を起こしたのにもかかわらず、山内は珊瑚の頭を撫でた……。