そんな感じで、一緒に帰るのも、一緒にお弁当を食べるのも、カメラがないと目が見れなかった珊瑚に、岸田はやさしく接し、山内は呆れて付き合ってくれた。

とはいえ人間は順応する生き物である。一ヶ月もすると、珊瑚は両隣に推しが居ることにも慣れた。まだ目は見れないが、カメラを構えず真っすぐを向いて帰り道を歩くことが出来るようになってきた。しかし、不測の事態に備えてカメラは首にかけている。岸田もそのことを喜んでくれて、より高度なお付き合いを要求するようになってきた。……人間は順応する生き物だ。

帰り道。駅ビルに着くと、エントランスでバレンタインフェアの催しがやっていた。そうか、もうそんな時期か。珊瑚は人生で父親にしかあげたことはないけど、二人はまたいっぱいのチョコレートをもらうんだろうなあ、と思っていた。

「もうすぐバレンタインですねー」

珊瑚が催しを見てそう言うと、二人はうんざりしたような顔をした。

「もうちょっとさ? 団体ごとに纏めて一個とかにしてくれても良いと思うよ?」

「荷物になるからそもそも要らねー。兄貴も食わねーし、母さん一人じゃ持て余すから、貰っても無駄なだけ」

女子からの絶大な人気を誇る二人だから、そう言う悩みも出るんだろうなあ。珊瑚は推しにチョコなんて考えた事ないけど。

「でも、珊瑚ちゃんからのチョコなら全力で受け取るからね? 待ってるね」

にこにこにこっと微笑んで岸田に言われて戸惑う。

「えっ、当然不参加のつもりでしたが?」

だって埃だし。そう言ったら、なんでくれないの! と嘆かれた。

「お付き合いしてるんだから、チョコはマストでしょ! 二人宛てで良いから、僕待ってるからね!」

そう頼まれてしまうと、推し相手に嫌ですとは言えない。不承不承頷いて、珊瑚は生まれて初めてバレンタインに参加することになった。

最高の推しに贈るチョコ。どんなチョコが、良いだろう――――。