翌日の月曜日から、私の放課後は変わった。ピンチヒッターとしての気持ちでの練習参加ではなく、ちゃんといち部員として覚悟を新たに練習に励みだした。
 マネージャー業務は、男女それぞれで分業することになったのだけれど……、
「荘原さん、テーピング切れたんだけど、どこにあるー?」
「なにこのアイシング、氷少なすぎ」
「うわ、ボトル、カビってるじゃん!」
「日誌、今日誰の番だっけ?」
 などと、やっぱり頼られることが多い。そして、それも悪くないと思っている自分がいた。
 マネージャーをすることは本当にやりがいがあったし、私の中のひとつの青春だった。でも、本当にやりたいことを心と体に正直に思う存分やれている今が、一番楽しい。
そのうち受験勉強を本格的に始めなきゃいけないけれど、あともうちょっとだけ頑張りたい。そして、高校を卒業しても続けていきたいと思っている。
「荘原さん、九条先輩は元気? 試験頑張ってるって?」
 試合が終わってから1週間経った火曜日、北見さんが私を肘で小突きながら聞いてきた。
「あー……うん、たぶん」
「たぶん? 連絡くらい取ってるんじゃないの?」
私は、苦笑いをしながら、
「えーと……邪魔したくないから」
 と誤魔化した。
私は、先輩に疑似交際解消を言われたはずなのに、まだみんなに何も言えずにいた。まず、何て言ったらいいのかわからない。“別れた”と言うのも“実は嘘だった”と言うのも、どちらにしても気が引ける。
それに……先輩との関係の糸を完全に切ってしまうようで、なんとなく嫌だった。諦めようと誓ったはずなのに、往生際の悪い自分にため息が出る。
「あいつは、明後日の金曜日からまた来るよ」
 そこへ、藍川先生が割って入ってくる。先生とは連絡を取っているようだ。
「そうなんだ」
 ぼそりとそう言うと、北見さんが、
「彼女より藍川先生のほうが知ってるじゃん」
 と笑いながらツッコんできた。先生の顔を見るも、同じように笑っている。
「あ! そうだ、荘原さん」
 北見さんが先にコートに戻ると、先生に呼び止められた。振り返ると、
「この前が言ったこと、まんま自分にブーメランだったわ」
 と言われる。
「え?」
「後悔は後からすべき、って話」
 先生は、子どもみたいにピースをした。