『あんたに今必要なのは、傷付く勇気と信頼する勇気でしょ』
一方の結果を先回りして恐れるあまりに、私は踏みだしてこなかった。もう一方の可能性を得られたかもしれないのに、最初からその選択から逃げてきた。本音では受け入れてもらいたがっているくせに、思いきり好きなことをやりたいくせに、自分で自分を傷付けたくないがあまり、箱の中に閉じこめてきたんだ。
私は、体も心も成長している。あの日の小学生のままじゃないんだ。大丈夫。傷付く勇気も、信頼する勇気も、ちゃんと備わっているんだから。
「…………」
その気持ちをふわりと飛ばすように、私の手からボールが離れた。それはゆっくりと弧を描き、静かに宙を進んでいく。
「入れっ!」
 そんな声が、いくつか聞こえた。私も心の中で、同じように叫ぶ。
「あぁっ!」
 けれど、次の瞬間、悲嘆の声が不揃いに聞こえた。思いとは裏腹に、ボールはリングの端に当たって跳ね、それが床に落ちると同時にけたたましい電子ブザー。終了の合図が、体育館に響く。
「あ……」
 外れた……。負けてしまった。
 私は、ボールを投げた腕をゆっくりと下ろす。そして、自分の心臓の音を聞いていた。
みんなが、私を振り返る直前。ついさっき、確実に持てていたはずの勇気が、一気にあやふやになりそうで、その心音が動揺するように大きくなっていく気がした。
 “荘原さんのせいで……”そう言われる覚悟を、唇をきつく結ぶながら決める。
「あと1センチ! めちゃくちゃ惜しかったー!」
 すると、目が覚めるほど大きな声が、すぐに届いた。北見さんの声だ。
「うわー! 悔しいね! 悔しいよね、荘原さん」
 続いて、根津さんの声。
「先輩、ドンマイです!」
「絶対入ると思ったのにー。どこかから風が入ってきてたんじゃないですか?」
 後輩たちの声も。そして、いつの間にか周りに集まってきていた4人。
「え……」
 気が動転した私は、両手を胸の前に上げて一歩後ずさる。すると、その手を根津さんがぎゅっと握った。まるで、ハリッチを握ったかのような安堵が、体の中にぶわっと瞬く間に広がる。
「でも、楽しかったね! うちら、めちゃくちゃ頑張ったよね!」
「ホントホント。ほら、並ぼう」
 そして、背中を押してくれる北見さん。その手の温かさにもホッとして、その後でようやく、“悔しい”がやってくる。
「……っ!」