いつもは他の男子たちと一緒に部活に来るのに、なんでだろう。この前、北見さんから、根津さんに怪しまれているということを聞いたから、こういう場面を見られてしまったらと居心地が悪くなってしまう。
 そうでなくても、政本君相手だとドキドキしてしまうんだけれど……。
「荘原って、同じクラスになって気付いたけど、いつも小走りで体育館に向かってるよね?」
 横を歩きながら聞いてくる政本君。私は部活中のように平静を装い、
「あぁ、だって部室の鍵を持ってるの私だから、1番先に行って開けておかなきゃいけないし。あと、準備とかもいろいろあって」
 と答えた。
「そっか、マネージャーだから、よく考えたらそうだよな。ホント感心……ていうか、ありがとうだな。1年のときから」
「全然だよ。実際に練習してる政本君たちのほうが、頑張ってるし、感心だし、ありがとうだよ」
「ハハ、なんだそれ」
 クラスでも部活でも必要なことしか話さないから、こういう話をするのは少し照れる。私は髪の毛を無駄に整え、歩くスピードを若干早めた。
 歩きながら盗み見ると、彼の短髪が夕方の光に透かされてキラキラしている。誰とでも分け隔てなく接してくれて、気さくで優しい政本君。彼のことを嫌っている人なんて、ひとりもいないだろう。きっと、根津さん以外にも、彼に好意を寄せている人はたくさんいる。
「あ、やっぱり来てた」
 体育館の入口まで来ると、ボールが弾む音が聞こえてきた。その音に反応してそう言った政本君は、
「こんにちは、先輩! じゃなかった、コーチ!」
 と、中に入るなり大きな声で挨拶をした。
 シュッと、ちょうどリングネットにボールが入る小気味よい音。その音の向こうで、九条先輩が見本のようにきれいなフォームのまま、
「あぁ、こんちは」
 と、こちらに気付いて返事をした。
 隣接する部室棟ですぐに練習着に着替えて戻ってきた政本君は、九条先輩のもとへ駆け寄り、いろいろと相談してはアドバイスを貰っている。私は傍らで準備を進めながら、政本君が早く体育館に来た理由に、なるほどと思った。
『3ヶ月前くらいに怪我したから』
 九条先輩の言葉を思い出し、私は自然と彼の肩や腰や足に目がいった。ディフェンスのアドバイスをしながら実践して見せている様子に、傷をかばっているようなそぶりは見えないけれど、大学では本当にもうやっていないのだろうか。