翌日の日曜日は、曇り空だった。試合会場の体育館に着いてロビーに入ると、数人集まっていたうちの高校の部員たちと藍川先生が見え、そちらへと向かう。
たくさんの人たちが、ガヤガヤと話したり笑い合ったりしている。緊張している私は、そのたくさんの声や匂いに酔いそうだと思いながら、人ごみをかき分けた。
「おはようございます」
「おはよう、荘原さん」
 藍川先生が気付き、私の肩にポンと手を当てる。
「よく眠れた?」
「はい」
 嘘だ。昨日と今日のことが頭にさんざんよぎり、無理やりかき消してはまた考えてしまって、結局睡眠不足だった。
「あ! 荘原さん、おはよう」
「おはよー、荘原マネ……じゃなくて、荘原さん! 今日は頑張ろうね!」
 すぐに根津さんと北見さんも来て、声をかけてくれる。
「おはようございまーす」
 政本君も欠伸をしながら到着し、先に数人の部員が陣取ってくれていた二階席へと向かった。
「あ、そうだ、荘原さん。これ」
 階段をのぼっていると、前を歩いていた北見さんが振り返った。そして、バッグの中から赤いものを取り出して見せる。
「なに?」
「リストバンド。あ、吸水性が悪いから、ちゃんと1回洗ってあるよ。心配しないでね!」
驚いた私は、踊り場で立ち止まってしまう。それは、部員たちみんなのために購入したリストバンドと同じものだった。
「……なんで?」
「私と真梨香で話してね、同じものを買いに行ったの」
「お金は?」
 部費は、私と先生で管理してるんだけど……。
「そんなに高いものじゃないし、うちらで出したよ」
「そっ……」
そんなことしなくてもよかったのに。だって、どうせ今日の試合だけ出て終わりなんだから。
そう言ってしまいそうになった口を噤み、まじまじとリストバンドを見る。すると、スポーツメーカーのロゴの下に、私のイニシャルである“A・S”が刺繍されていることに気付いた。
「これ……」
「あー、ハハ……荘原さんほど上手じゃないんだけど」
「もしかして、北見さんが入れてくれたの?」
「あんまりちゃんと見ないでね、曲がってるから」
 北見さんが、照れながら頭をかく。私は、今まで体験したことがないような気持ちで胸がいっぱいになった。
「あ……ありがとう」