「もしかしてレポー……」
「レポートは冗談だって。明日は父親の法事、13回忌」
「あ……」
 また謝ってしまいそうになり、慌てて口を噤む。
「そうなんですね。わかりました。了解です」
「ふ……」
 優しく笑った先輩に気付き、私はその顔を見た。自分の気持ちに気付いてから、先輩の笑顔がいちいち特別に感じる。
「今週はコーチにも行けなかったし、試合にも行けないから心配してた」
「みんなのことをですか?」
「そうだね。それと……」
 じっと見られて、私は首をかしげる。すると、また先輩が笑った。
「よかったよ、今日会う連絡くれて」
「……はい」
「頼れたじゃん、人間を」
 そう言われ、胸が詰まった。何も言えずに頷いた私は、自分の足元を見る。気を抜くと、また泣いてしまいそうだ。
「明日、頑張れよ」
 私はうつむいたまま、コクコクと頷く。また会えるはずなのに、今日の別れがこんなにも苦しいのは、なぜなのだろう。
「あぁ……あと、ひとつ」
 先輩はもうひと口飲んだペットボトルのキャップを、キュッと締めた。そして、伏せた目をそのままに、
「もう噂も落ち着いたようだし、疑似交際解消ってことでよろしく」
 と言った。
「え……」
「今まで付き合わせて、悪かったな。あと……そうだ、政本に今度は怪我するなって釘刺してて」
「あ……はい」
「それじゃ……」
 放心していたはずの私は、自分でも無意識で、
「先輩っ!」
 と言って呼び止めていた。先輩が振り返ったところで、あれ?私は何を言おうとしているんだろう?と自問する。
「なに?」
 先輩が帰ろうとしている方向に太陽があり、そのことで先輩の顔が逆行で暗く見えた。私は、動揺する気持ちを抑え、ずっと言おうかどうか迷っていたことを口走る。
「藍川先生、別れるかもしれないって!」
「……え?」
 先輩の声は、頓狂な声に聞こえた。表情は見えづらいけれど、きっと驚いた顔をしている。
「この前、相手の方と電話しているところ、聞いちゃったんです。それに、ちょっと前にも、うまくいってないようなこと直接聞きました」
「なん……」
「私、九条先輩と藍川先生、合ってると思います。考え方も似てるし、きっと付き合ったら相乗効果でお互いを高め合えるかと思います」
 勢いづいて止まらない私は、先輩が口を開くのを遮るように続ける。