私はその視線を剥がすように、口を押さえて顔を背けた。
「そ……それは、ほら、みんなに迷惑をかけたくないっていうのは、あるじゃないですか。普通に」
 そして、早口で反論する。私はこんな話をするために先輩を呼んだはずじゃないのに。きれいにお礼を言って、きれいに明日の試合を終わらせるはずだったんだ。
「迷惑をかけたくない、の裏に、白い目で見られたくないとか失望されたくないって気持ちがあるんだよ。他人を優先しているようでいて、自分を守ってる」
「そっ……そんなこと」
「そして、それも普通のことなんだ。ただ、澪佳自身がそれを認めたり乗り越えたりする経験をしてきていない」
 先輩が、顎を上げて体育館の天井を見上げて言った。目を細め、ふう、と息をついている。
「……え?」
 私は意味が分からずに聞き返した。手に持っているタオルを、ぎゅっと握る。
「たぶん、昔のまま、自分で自分の成長を止めてる」
「ど……どういうことですか?」
「傷付きたくないってだけで、他人と深く関わることを面倒くさがってるからじゃない? 仲間とか相手を、根っこの部分で信頼信用してないんだ」
 私は絶句した。冷えた汗が顎へと伝い、ぽたりと落ちる。体育館の静寂が、恐ろしいほど重みを持っている気がした。
「でも、一方では、そうしたいって求めているんだと思う。試合に出ることを了承したのも、こうして練習しているのも、殻を破りたい気持ちの表れでしょ?」
「…………」
「自分で自分を“かわいそう”とか“体が弱いから仕方ない”って無理やり完結させていることに、本当は嫌気がさしてるんだよ」
 あのときと同じだ。先輩の言葉が、私の胸の中をヒリヒリさせて、涙腺を刺激する。先輩は私の詳細な過去なんて知らないはずなのに、なんでこんなに私を見抜くのが得意なのだろう。
「緊張も“怖い”も、“悪者になりたくない”っていうのも、その奥にみんなに認められたい気持ちがあるからこそだろ? まず、認めてもらいたいその気持ちを、自分で認めてやれよ。じゃなきゃ、何も得られないし、得られないことで不完全燃焼の気持ちもそのままだ」
「でも」
 いつの間にか、私の目には涙が溜まっていた。話を遮った私と目が合った先輩は、
「うん」
 と私の言葉を待つ。喉をこくりと鳴らした私は、下唇を噛んだ後で、また口を開いた。
「私のせいって……言われるかもしれない」