私としては、話メインで先輩を呼んだのだけれど、ストレッチのあと、シュート練習やドリブル練習、カット練習と、今まで以上に細かく指導が入る。私のクセや弱点を的確に言い当てられ、改善するまで根気強く付き合ってくれた。
 
「おい、まだゲームまで行きついてないのに、へばりすぎじゃね?」
 1時間休みなしで練習したので、私は息が上がり、汗びっしょりになっていた。先輩はあいかわらずで、前髪すらサラサラしている。
「なんか、いつもにも増して鬼じゃないですか?」
 肩で息をしている私は、壁際の風が通る場所に体育座りで寄りかかる。
「だって、あんたが体弱くないって知ってるから」
 そして、九条先輩も同じように、隣に腰を下ろした。バス停で座っていたときよりも少し離れた距離は、床についた手と手も触れそうにない距離だ。
「……体、弱くない、か……」
 先輩の言葉を繰り返して、ふふ、と笑ってしまった。そして、観念したように、
「そうです。私、健康です」
 と言った。
 外の風が、一気に体育館に入ってきた。他に誰もいない昼間の体育館は、窓を開けたこの場所だけが眩いほど明るくて、まるでスポットライトを浴びているようだ。
「でも、怖いんです」
 それは、藍川先生にも言った言葉だった。そして、
「本気を出した上で、ダメだったときが怖い」
 と同じように続ける。
「臆病なんだと思います。“失敗が怖い”っていう極度の緊張で、きっと固まってしまうんです。それが、発作みたいになってて……」
「違うだろ」
 説明しようとすると、先輩に会話を一刀両断された。私は、「え?」と言って瞬きをする。
「本領発揮ができないことが怖いっていうより、自分のせいでみんなの空気を壊すことが怖いんだよ、澪佳は」
「…………」
「悪者になりたくない、ってだけだよ」
 その言葉を合図に、体育館の一角で小学校のときのバスケの試合が再現されはじめた。私が最後のチャンスのシュートをミスして、うずくまるポーズをした場面。そして、その後いくつかの、ここぞという場面で本当に過呼吸になってしまった場面。
 最後、今度はメンバーのみんなの視線が、一斉にこちらの現在の私へと移る。
『あーあ』
 その中の茉莉ちゃんが、歩み寄ってくる。
『澪佳ちゃんのせいで』
 来ないで。そんな目で、私を見ないで。
『また負けた』
「……っ!」