どんどん流れていく会話に、私はちゃんと聞き返せないまま、ただただ頷く。でも、“怪我”というワードが頭にこびりついたままだ。
「ど、どうですかね、部員たち。まずは地区予選突破したいですけど」
「本人たちのやる気次第としか」
「でも、先輩がきたので、きっとモチベーション上がってますよ」
「どうだか」
 私は、当たり障りもなく盛り上がらない話を一生懸命つないだ。
 今さらもう掘り返して聞くのも変だ。空気を読むなら、怪我のことは聞くべきではない。周りがどれだけ気になっても、本人が言いたくないことがあるってことを、私はよく知っているのだ。
「あ、バス来た」
 しばらく話をポツポツとしていると、私の乗るバスが見えてきた。15分間、とてつもなく長かったような気がする。バスを見てホッとしてしまったのは、やはり緊張していたからだろう。
 立ち上がった私は、先輩に深々と頭を下げた。
「あの、これからご指導よろしくお願いいたします」
「改まって、なに? マネージャーなのに」
「いえ、私、隅っこにいて、部員たちみたいに正面からきちんと挨拶できてなかったので。それに、あと3年はあと数ヶ月しかないですが、1試合でも多く、みんなに勝たせてあげたいなと思ってるので」
「…………」
 バスが歩道際に横付けして、乗降口が開く音が響いた。バスが連れてきた風が、私の長い黒髪をうねらせる。
「それじゃ、失礼します。おつかれさまでした」
「すげー堅苦しい」
「え?」
「おつかれ。じゃーね」
 手を振ってきた先輩を見て、私はまた会釈をしながら慌ててバスに乗りこんだ。
 ……“堅苦しい”……?
 そんな言葉が聞こえた気がしたけれど、私は気のせいだと思うことにして、バスの後ろの車道側の席に座った。
「……火……金……」
 そして、彼が来る曜日を呪文のように唱え、ふう、とため息をついたのだった。



 3日後の金曜日の放課後、いつものように部員のみんなより先に着いて準備をすべく体育館へと急いでいると、途中で肩を叩かれた。
「おつかれ、荘原」
 振り返ると、政本君だった。
「……おつかれさま」
 体育館へと続く通路は、まだ距離がある。私は、周りに女子バスケの子がいないか確認して、また歩きだした。すると、政本君も歩幅を合わせて横を歩きはじめる。