『あれだな。何をするにしてもしないにしても後悔はするんだから、結局したいようにすればいい、って話』
『どっちにしても後悔するって……ネガティブじゃないですか?』
『一周回って、ポジティブだよ』
 そう、九条先輩とした話だ。
 私は、その言葉から、過去から現在にかけての自分を振り返ってみた。そうすると、今の自分は結局、諦め続けてきた過去の自分の積み重ねでできているのだと気付く。
「ていうか、こういうのって本当におせっかいなんだけどね。今の自分に本当に満足できているのならいいんだけど、荘原さんはそうじゃないように思えてさ」
「……はい」
「きっと、敦也はもっと前から見抜いてたんだろうけど」
 私は、先輩の今までの言葉を思い出しながら頷く。
『スタートラインで無駄な足踏みしてる感じ?』
『やりたいって気持ちがあって、それができるんなら、やったほうがいい』
『何も始めようとしてないからでしょ?』
 あのひと言ひと言に心が揺さぶられたのは、きっと図星だったからだ。気付かないふり気にしてないふりをしていた私を、見透かされたからなんだ。
『変わりたくないなら、無理に変わらなくていいよ』
「…………」
 ……私は、変われるのだろうか。……ううん、自分を変える覚悟があるのだろうか。変わりたいと思いつつも、悩みや理由をわざと作って逃げる口実にしていたのは、まぎれもなく自分自身なのに。
「……先生、あの……」
 今の私は、違う選択や新しい選択ができたはずなのに、怖がってそれを選んでこなかった自分の集合体だ。今の自分を変えたいなら、たった今からその選択を変えていけばいいのかもしれない。いつもなら選ばない、勇気のいる選択をしてみたら、もしかしたら違う風景と自分に気付けるのかもしれない。
 私は、伏せていた目をしっかりと上げる。そして、藍川先生をまっすぐに見て、伝えた。
「私、試合に出ます」