北見さんや根津さんからは、大げさに心配された。無理やりチームに入れたからと責任を感じたらしく、藍川先生と同じようなことを言ってきた。それが心苦しくて、私は「違うよ」と何度も言ったのだけれど、それと同じくらい何度も謝られてしまった。
『何のフラッシュバックかもう一度よく考えてみろよ』
九条先輩にそう言われたあのときから、その言葉が私の頭にはべったりとこびりついて離れない。そして、謝られるたびに、頭の中で九条先輩が私に尋ねてくるのだった。
「荘原?」
ぼんやりしているところに、隣から声がかけられる。部活が終わり、19時過ぎの薄暗いバス停。そのベンチのいつもの場所には、政本君が座ってこちらを見ていた。間には、人ふたり分くらいのスペースだ。
「聞いてた? 話」
「え? あ……ごめん、ぼーっとしてて」
「ひでぇな。コハセンの話だよ」
「あぁ……」
ハハ、と笑うと、政本君は私たちの担任である小橋(こはし)先生の話を面白おかしく教えてくれる。政本君は、運動神経がよくて、優しくて、場の空気も盛り上げてくれて、クラスでも人気者だ。話しているとよくわかる。気配り上手なんだ。
でも……バスが来るまでの15分間て、こんなに長かっただろうか。
そんなことを思って、視線を落としたとき。
「そういえばさ、荘原は本当は九条先輩とは交際してないってことだったけど」
「え? あぁ、うん」
「好きな人とか、いるの?」
政本君にそう尋ねられ、私は固まってしまった。
「好きな……人……」
政本君の顔を見ながら繰り返し、「あ……」と二の句が継げなくなる。だって、今目の前にいる人が、好きな人のはずだったからだ。それなのに……。
『だから、人間を頼れって』
私を本気で叱ってくれる、そんな人の顔が頭に浮かぶ。そして、一瞬で顔に熱が集まり、無言でうつむいてしまった。
「……いるんだ」
それを見て察したらしい政本君は、私の顔を覗きこむ。少し離れているけれど、ちらりと政本君を見ると、しっかりと目が合った。
途端に、政本君まで赤くなる。そして、丸めた姿勢をまっすぐに伸ばし、
「や、ごめん、無理には聞かない」
と慌てて言った。
ようやく来たバスに、私はホッとした気持ちで乗りこむ。政本君と手を振り合って別れ、そこでもまた、いつも軽く手を上げる九条先輩のことを思い出していた。
『何のフラッシュバックかもう一度よく考えてみろよ』
九条先輩にそう言われたあのときから、その言葉が私の頭にはべったりとこびりついて離れない。そして、謝られるたびに、頭の中で九条先輩が私に尋ねてくるのだった。
「荘原?」
ぼんやりしているところに、隣から声がかけられる。部活が終わり、19時過ぎの薄暗いバス停。そのベンチのいつもの場所には、政本君が座ってこちらを見ていた。間には、人ふたり分くらいのスペースだ。
「聞いてた? 話」
「え? あ……ごめん、ぼーっとしてて」
「ひでぇな。コハセンの話だよ」
「あぁ……」
ハハ、と笑うと、政本君は私たちの担任である小橋(こはし)先生の話を面白おかしく教えてくれる。政本君は、運動神経がよくて、優しくて、場の空気も盛り上げてくれて、クラスでも人気者だ。話しているとよくわかる。気配り上手なんだ。
でも……バスが来るまでの15分間て、こんなに長かっただろうか。
そんなことを思って、視線を落としたとき。
「そういえばさ、荘原は本当は九条先輩とは交際してないってことだったけど」
「え? あぁ、うん」
「好きな人とか、いるの?」
政本君にそう尋ねられ、私は固まってしまった。
「好きな……人……」
政本君の顔を見ながら繰り返し、「あ……」と二の句が継げなくなる。だって、今目の前にいる人が、好きな人のはずだったからだ。それなのに……。
『だから、人間を頼れって』
私を本気で叱ってくれる、そんな人の顔が頭に浮かぶ。そして、一瞬で顔に熱が集まり、無言でうつむいてしまった。
「……いるんだ」
それを見て察したらしい政本君は、私の顔を覗きこむ。少し離れているけれど、ちらりと政本君を見ると、しっかりと目が合った。
途端に、政本君まで赤くなる。そして、丸めた姿勢をまっすぐに伸ばし、
「や、ごめん、無理には聞かない」
と慌てて言った。
ようやく来たバスに、私はホッとした気持ちで乗りこむ。政本君と手を振り合って別れ、そこでもまた、いつも軽く手を上げる九条先輩のことを思い出していた。