まるで一度目の嘘の罰のように、演技ではなく本当に苦しくなり、試合をたびたび中断させることになった。そしてそれは、私にとってもチームにとっても“ここぞ”という場面。私の動向が一気に注目を浴びるシュートの場面や、ドリブルのミスが許されないような場面だった。
『あーあ、またかー』
『仕方ないよ、澪佳ちゃんだから』
 それが何度も起こると、最初は心配していたチームメイトたちも、私を厄介者扱いしはじめる。
 そして、
『あーあ、澪佳ちゃんのせいで、また負けた』
 茉莉ちゃんからその言葉を受けた日を最後に、私はバスケットボールをやめたのだ。
 違うのに。私は本当に勝ちたいし、発作なんて起こしたくないのに。もう、起こらないはずなのに。もし本当に最初に嘘をついてしまった罰なのだとしたら、たった1度の過ちのせいで、私は一生大好きなバスケができないのだろうか? せっかく健康になったのに?
帰りの車の中、ハリッチを握りしめながら泣いたことを思い出す。そして、その後、中学生になってからも、折に触れて発作が私の邪魔をしてきたことも。

「…………」
小学生から少しずつ移ろいゆき、鏡の中の自分が、今現在の私の顔へと戻った。けれど、その目は虚ろなまま。自分に自信がなくて、どこか諦めている覇気のない目だ。
 いつもなら、むりやりその顔の口角を持ち上げて、周りに心配させないように笑顔の練習をしてきた。空気を読んで行動するのに、笑顔という武器は必要不可欠だからだ。
 けれど、それすらうまくできない。私って、どうやって笑ってたっけ? そもそも最近心の底から笑顔になれたことがあったっけ?
「澪佳? どうしたの?」
 そのとき、洗面所を通ったお母さんが、廊下から覗いてきた。
「ううん、何にも」
「昨日の試合、体調不良で帰ってきたんだし、今日も横になっていれば?」
「……うん」
 昨日昼前で迎えに来てもらったお母さんには、貧血のせいで帰らせてもらったと伝えていた。藍川先生が挨拶をしたい、と言ったけれど、試合に出たことがお母さんにバレるのが嫌で、適当な理由をつけて断ったのだ。だから、お母さんは、あくまでマネージャー業務を早退してきたと思っている。
「食欲はある? 買い物に行くから、何か食べたいものがあったら、買ってくるわよ?」
「ううん、べつにいらない」