時期を待ち小学4年生で手術をした私は、親やお医者さんに言われて、念のため1年間は控えめに運動をしていた。そして5年生になり、術後も良好で問題なしと言われたため、もともと興味のあったバスケットボールのクラブチームに入る。
 最初はよかった。思いきり走っても大丈夫で、みんなと一緒に精一杯汗をかける喜びに、舞い上がっていた。
 けれど、初めての試合の日。緊張していた私は、ここぞという場面でゴールを何度も外してしまう。それでも仲間たちが点を獲られては奪い返してくれて、最後の最後、これで逆転だというラストチャンスで回ってきたボール。
 私は、それをまた、外してしまったんだ。
『うそー……』
『負けちゃったー』
 試合終了のブザーが鳴り、そんな仲間の声が耳に届いた。私は、その空気に耐えられなくなる。
『……あ……』
 スポーツの汗とは違う、罪悪感の冷や汗がこめかみを伝う。こんなはずじゃなかった。そう思う気持ちが、私の膝をゆっくりと曲げさせる。
『うっ……』
 私は胸を押さえ、顔をしかめて、苦しさを演出した。ゴールを外して試合に負けたショックから、自然と涙が出てくる。それが、周囲に真実として目に映った。
『澪佳ちゃんっ?』
『えっ! 大丈夫? どうしたの?』
『もしかして……ほら、澪佳ちゃんってさ……』
『じゃあ、発作? 大変!』
 私はしゃがみながら、ポケットのハリッチを取り出し、強く握りしめた。それは、発作をおさめるためにじゃない。ボールを外してしまった罪悪感と、この、新たに生まれたもうひとつの罪悪感、それらに押しつぶされそうな自分の弱さに耐えるためだ。
 大丈夫。私は、大丈夫。悪くない。私は、悪くない。
 ……それは、1回きりの嘘だった。自分で自分を守るための、悪者にならないための嘘だった。親や先生や友達から本気で心配されたことで、自分で自分が嫌いになりそうになり、もうこんなことはしないと胸に誓ったからだ。
 でも、次の試合も。
『大丈夫? 澪佳ちゃん!』
 その次の試合も。
『コーチ! 澪佳ちゃんが倒れました!』
 そのまた次の試合も。
『息できる?』
『いったんコート脇で休もう』