ギッと、折り畳み椅子の軋む音が響く。そして、九条先輩が息をついた音が聞こえた。それが呆れのため息みたいで、私はいっそう縮こまる。
「……あのさ」
 先輩の声に、私は返事をしなかった。
「その発作っていうか過呼吸みたいなやつ、本当に体だけが原因?」
「…………」
「ていうか、そうじゃないって、自分でもわかってない?」
 私は、コンクリートの壁を見つめたまま、微動だにしない。ただ、先輩の言うことを聞いていた。
「ハリネズミに助けを求めるのいつまで続けるつもりか知らないけど、人間相手にはソレできないの? 周りの人間はハリネズミ以下? 信頼するに値しない?」
「…………」
「まぁ、言いたくないなら無理には聞かないけど。今後もずっとそれ放置したままでいくなら、それはそれで澪佳の人生だろうし……」
「先輩にはわからないっ!」
 気付けば、半身を起こして先輩の上着をぎゅっと握っていた。唇が震えている。発作のせいじゃない、自分の中の憤りがそうさせているんだ。
「小さいときからやりたいことを我慢させられて、内緒で遊んでは発作を起こして両親を泣かせて」
「うん」
「苦しさと、親の心配した顔……それがフラッシュバックになって消えないんです。そのせいで、手術が成功してからも満足に運動できたためしがなくて」
「本当にそう? ひとりのときとか、俺とだけのときは大丈夫なのに?」
「え……?」
「団体競技に限った話だろ、発作が出るのは」
 狭い部屋から、急に音が失われた。体育館で試合をするボールの音やバッシュの音、そして歓声。それらが、遠く響いてくるだけだ。
「……なにを……」
 何を言っているんだ、先輩は。そんなの、おかしい。
「私はただ……フラッシュバックのせいで……」
「何のフラッシュバックかもう一度よく考えてみろよ。本当に手術前に体が弱くて起こした発作のフラッシュバックなのか。頭に浮かぶのは、親の顔だけなのか」
「…………」
 心臓の鼓動が、また激しくなってきた。どうも落ち着かず、喉が渇いて生唾を大きく飲む。手元が心許なく感じ、私は膝の上の先輩のジャージをまた握った。でも、違う。これじゃない。
「ハリッチ……」
「ないよ」
「あれがないと……私は……」
「おい」