落ち着け。みんなが変に思っちゃう。女バスの仲間が心配してしまう。笑え。笑うんだ。笑って“大丈夫”って言って立ち上がればいい。そして、“私のせいで負けちゃって、ごめんなさい”って言って……。
「だ……大丈……」
「おい、喋るな」
 そのときだった。うずくまってうつむいた顔の前に影ができたかと思うと、腕を取られて引っ張られる。視線を上げると大きな背中が眼前に広がり、その肩にしがみつかせる体勢で、無理やり体を預けさせられた。
「休ませてくるので、この人抜きで続けててください」
 そして、ふわりと浮いた私の体。これが九条先輩の声だとわかったときには、すでに背負われながら移動していた。
「くじょ……」
「更衣室横に小さな畳の部屋があったから、そこに行く」
「……先輩……あ、足……」
「人の心配してる場合か」
 体育館のざわついた声が遠くなっていく。私は先輩の襟足に顔をうずめたままで、下唇を噛んだ。
 ……やっぱり、ダメなんだ、私は。
そう思いながら。

 その部屋は4畳ほどの本当に小さな部屋で、畳が一段上がったところに2畳分くらい、そして折り畳み椅子が1脚だけ置かれていた。私は畳に寝かされ、先輩はその椅子を開いて座る。
「かけるもの、ないから」
 そう言って、自分の羽織っていたジャージを私の上にかけてくれた。それは、私が身動きするたびに、シャカシャカとした音を立てる。
「まだ苦しい?」
 そう聞かれ、私は、
「ちょっと……」
 と返した。さっき『大丈夫』だとみんなに言おうとした口が、先輩の前では正直だ。
「何か温かい飲み物でも買ってこようか?」
「いいです。それより……私のバッグを……」
「なんで?」
「ハリッチ……」
 そう言いかけて、そういえばなくしていたんだったと思い出す。
「……いえ、よかったです」
 そして、私は先輩と反対方向へと寝返りを打った。さっきの試合終了間近の空気がよみがえってきて、私はきつく目をつむる。心拍の乱れがまだ整わず、私は胸の前でぎゅっとこぶしを握った。
「もう……出ません。やっぱり試合とか……無理でした」
「…………」
「みんなに迷惑かけることになるし、私も体がしんどいし、責任取ってもうひとり新入部員かピンチヒッター見つけます」