「うん……」
「無理は禁物だぞ?」
 昨日から、“無理するな”という言葉ばかりをかけられている。そして、そのたびに、複雑な気持ちになってしまう。自信を持つ方向とはまた逆のベクトルが働いているかのようだ。
「大丈夫だから」
 そんな私に気付いたのか、先輩が私の背中をパンッと勢いよく叩いた。
「いったー……」
「先輩、女の子にそんなことしちゃダメですよ」
「いいの。この人は肩に力入れすぎてるから」
 九条先輩はそう言って、ふん、と鼻を鳴らす。すると、政本君が、
「本当の彼氏ではないんだし、そんな決めつけたような言い方しないほうがいいと思います」
 と反論する。
「べつにそういう問題じゃない」
「いやいや、なんか荘原のことを全部わかってる的な言い方に聞こえますし」
 なんだか不穏な空気になって、その発端が自分であることが申し訳なくなってくる。すると、九条先輩がまた鼻を鳴らした。そして、
「脈ありじゃん」
 と、こっそり耳打ちしてくる。その声が温度を伴って耳に流れこんできたようで、私の耳は途端に熱くなった。
「あー! セクハラですよ、それ」
「ていうか、試合前にごちゃごちゃうるさい、政本。集中欠いてケガするなよ? 今日は」
「しないですよ!」
 なんだかんだで、九条先輩に懐いている政本君は楽しそうだ。ちょっとヒヤヒヤした私は、胸をなでおろす。
けれど、体育館に着くと、やはりまた不安に飲みこまれ、ため息が出てしまう。
「おはようございます。よろしくお願いします」
 中に入り、そう言って下げた頭が、鉛のように重たく感じた。

「すごいじゃん、荘原さん! ちゃんと動けてるし」
 ウォーミングアップや、ドリブル練習シュート練習が終わり、さあ休憩後は試合をしようというとき、根津さんが、ドリンクを飲む私の横にやってきた。
「ていうか、スリーポイントシュートのフォームがすごくきれい。マネージャーとしていろいろ研究してくれてたからかな? お手本になるくらいだよ」
「言い過ぎだよ」
「でもさ、あんまりバテてなさそうだし、試合も大丈夫そうだね」
「そうかな」
「即席女子バスケ部だけど、勝てちゃったりして」
 根津さんはいい子だ。私が緊張しないように、明るく気持ちを持ち上げてくれようとしている。
「あ、そういえばさ、荘原さんはリストバンドしないの?」