バス停に着いたときには、お互い息切れしており、同時にベンチに崩れるように座る。着いたのは、私の乗るバスの時刻の1分前だった。
「……ってぇー……」
 と、そのとき、先輩が自分の膝を押さえた。走るのに夢中で全然先輩の膝のことを考えていなかった私は、慌てて、
「すみません! だ、大丈夫ですかっ?」
 と尋ねる。
「大丈夫、すぐおさまる。運動するときはサポーターしてるんだけど、今外してること忘れてた自分が悪い。俺もなにも考えずに全力で走ったし」
たしかに先輩は速くて、半分引きずられるように走った。自分の乗るバスはまだ時間があるというのに、私のために体育館まで迎えに来て走ってくれたんだ。ありがたい。けど、本当に申し訳ない。
「ていうか、ほら、大丈夫じゃん、澪佳」
「え?」
「こんなに思いきり走っても大丈夫だった」
「……あ」
 そういえばそうだ。ここまでの速さで走ったのは久しぶりだった。
「あ、バス来た」
 そして、私の乗るバスが目の前で停車する。話したいことがたくさんあるのにそんな時間もなく、私は下ろしたばかりの腰をゆっくりと上げた。
「明日の練習試合、俺も行くから」
「はい」
 いろんな不安と先輩への申し訳なさでいっぱいの中、バスに乗る。そして、手を振る先輩に頭を下げたところでドアが閉まった。
 明日……。
 コートの中に立つことを考えると、足元が心許ない。シートに座った私は、自分の手をもう片方の手でぎゅっと握り、祈るようなポーズで心を落ち着けようとしていた。