無意識で、つないでいないほうの手がゆっくりとバッグのチャックを開ける。今日はチャックに付けていなかったハリッチを探り当て、私はすがるようにそれを握りしめた。
「あ……ハハ、楽しかったですよ? でも、変じゃないですか、何の目的もなく土曜日にふたりでバスケをするのも」
「だから、普通に女子バスケ部に入れば? って話」
「もう3年なのに?」
「関係ないだろ、やりたければやればいい」
「体が弱いし、発作が出るかも」
「出なかったじゃん、あれだけ動いて汗かいて息切れしても」
 私はいつの間にか、ハリッチを握る手の力を、つないでいる先輩の手にも入れていた。先輩も同じように力を入れ返してきたことでそれに気付き、私はパッとその手を離す。
「なんで私にバスケをさせたがるんですか? ていうか、なんでかまうんですか? 私に」
「そりゃ、いろいろ話聞いたり一緒にバスケやったりしてたら、嫌でも気付くからだろ。澪佳が本当はどうしたいのかって」
「私でもわかってない私のこと、先輩なんかにはわかりません。ていうか、もしそう思ったとしても、ほっとけばいいじゃないですか。だって、私たち本当に交際してるわけでもないんだし、そんな義理ないです」
「…………」
 押し黙った先輩を見て、私は今自分で言った言葉に傷付いていた。そう、手をつないでも、いろんな身の上話をしても、休日にふたりきりでバスケをしたとしても、私たちは付き合っていないんだ。
友人とも違う。あえて言うなら、ただの協力者という事務的な関係性。
「……もったいないじゃん」
 先輩は、離された自分の手を眺めながらぽつりと言った。虚ろなその視線が、手から自分の膝へとゆっくり移る。
「やりたいって気持ちがあって、それができるんなら、やったほうがいい」
 やりたくてもできないヤツもいるんだから、と、その後にそう聞こえたような気がした。
 私は、なにか取り返しのつかないことをしてしまったような気持ちになった。大きな先輩が急に小さく見え、またその場を取り繕うように謝る。
「ちが……あの、す、すみません。私、そういうつもりで言ったんじゃなくて」
 バスのライトが、私たちを照らした。すでに近くまで来ていた私の乗るバスが、大きな風を起こすとともにバス停に停車する。イヤホンをしていた女性が、先にバスに乗りこんだ。
「ハ……」
 先輩が笑う。