心の中でそう言って、その虚しさに指先が冷たくなった気がした。

「おつかれさまです」
「はい、おつかれ」
 バス停に着き、すぐに差し出された手のひらに自分の手を乗せる私。九条先輩はその手をきゅっと握って、私はゆっくりベンチに腰を下ろした。
今日は、ベンチの横にひとりの女の人が立っていて、ワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながらバスを待っていた。
「よかったです。女バス、新入部員が入りそうで」
 私がそう言うと、九条先輩は、
「あぁ……」
 と、顎を上げながら言った。
「ていうか、やらないの? バスケ」
「やらないですよ。やる必要ないじゃないですか、人数そろったんだし」
「ぎりぎりに変わりはないけどね」
 なんでだろうか、自分も嫌な言い方をしてしまうし、先輩の言葉にもトゲを感じる。
「土曜日の練習も、もう無しでいいってこと?」
「……それは」
 返事に窮してしまったのは、あの時間が本当に楽しかったからだ。けれど、試合に出ないことが決まった以上、あれを続けることに矛盾が生じてしまう。
「……はい。もう、いいです」
「へぇ、そう」
 その冷たい声に、思った。貴重な時間を使ってまで練習に付き合ってくれた先輩に、失礼極まりないのではないかと。その前に、ちゃんと言うべきことがあるのではないかと。
「あ! でも、あの、本当にありがとうございました。バスケ部のコーチをするのだけでも大変なのに、土曜日も付き合ってくださって。忙しいのに、私なんかのために……って、違うか、そもそもは女バスのために」
 そして、藍川先生のために。
「堅苦し……」
「あと、久しぶりに体を動かして、けっこう自分は大丈夫だな、って知れて、よかっ……」
「あのさ」
 結ばれた手をぎゅっとされ、こちらへ顔を向けた先輩。間近で見下ろされ、私の心臓までぎゅっとなった。
「そーいうのじゃなくて、もっと自分を出せば? 前に言ってたじゃん、純粋に“楽しい”って」
「……え?」
「なんか、あんたっていい子なのはわかるんだけど、常に周りのご機嫌取りをしてるみたいに見える。空気を読むべきだって気負っているっていうか」
 じっと目を見つめられながら言われているから、先輩が本音でそう言っているのが伝わってくる。私は、心臓をぎゅっとされた上に、じりじりと握りつぶされていくような錯覚を覚えた。