けれど、ふたりともあっけなくそう言って、
「それじゃ、お邪魔しましたー」
 とすぐに踵を返した。
 そうか、私と九条先輩って、付き合っているってことになってたんだった……。なんとなくホッとしたような、それでいて微妙なような、自分でもわからない複雑な気持ちになる。
ふたりが楽しそうに笑い合って体育館を出ていこうとした、そのときだった。なにかを思い出したかのように「あ!」と言った北見さんが、振り返って声を上げる。
「そういえば、荘原マネ、知ってるー? 藍川先生、結婚するかもって噂」
「……え?」
「まだ確かな情報じゃないんだけど、もし本当なら、みんなで寄せ書き書こうって計画してるから、ご協力よろしくね! あ、そのときは、ついでに九条先輩にも書いてもらってもいいですかー?」
 私のこめかみを、さっきまでとはまったく違う汗が伝った。斜め後ろに立っている九条先輩の顔は見えないし……見れない。
「はーい」
 とくに感情を感じられない間延びした声が、私の横を通って彼女たちに届いた。北見さんが、
「それじゃ、ごゆっくりー」
 と手を振り、ふたりともロビーの方へと姿を消す。
「そろそろ時間だな、片付けよう」
 かける言葉に迷っていた私は、先輩がそう声をかけてきたことでようやく振り返った。先輩は、一見なんでもなさそうな顔をしていて、ボールを軽くポーンと上げてキャッチし、倉庫のほうへ歩いていった。
「……はい」
 私も、モップを取りに後に続く。けれど、やっぱり藍川先生の件に関して聞くことはできなかった。

「それじゃ……ありがとうございました」
 体育館を出て、自動販売機の前で頭を下げる。
「汗かいてたから、風邪ひかないように」
「……はい」
 九条先輩をじっと見るも、その表情は読めない。励まそうにも、どうしたら傷付けないように励ますことができるのかわからなかった。なにもできない自分が歯がゆくなってくる。
「あ! 先輩、さっき飲み物もらったので、代わりにジュース奢ります」
「は?」
「いつも飲んでるコーヒーがいいですか? お茶かな? またスポーツドリンクでもいいですけど」
 そう言って、私は自動販売機に二百円を入れる。
「体育館のコート代も出してもらってるし、2本選んでいいですよ!」