先輩とだけバスケをするならまったく大丈夫だけれど、なんで私はこんなにも試合が怖いのだろうか。今までずっとマネージャーだったわけだし、期待されていないことは自分だって百も承知だというのに。
「じゃあ……最後にもう1回1対1をお願いします」
「もう? 全然休んでないだろ」
 渋る先輩の腕を引くと、先輩は「はいはい」と言って腰を上げる。そして、なんだかんだ言って付き合ってくれた。
 最初は先輩主導だったのに、今は自分が“もっともっと”という気持ちになってしまっている。ずっとできていなかったことができるようになって、箍が外れているのかもしれない。
「やった! 決まった」
 そして、数分後にシュートを入れて叫んだときだった。
「わー! 荘原マネ、すごいじゃん! バスケ上手」
 同時にそんな声が体育館の端から聞こえ、リングネットから落ちたボールがバウンドを数回繰り返して転がった。振り返ると、北見さんと根津さんがロビーの方からこちらを覗きこんでいた。
「ホントすごいね! 荘原さんがバスケしてるの初めて見たー」
 北見さんに続いて根津さんも拍手しながら黄色い声を上げ、ふたりは靴下のままでこちらへ向かってきた。そして、たたずんだまま彼女たちを見ている私たちに気付き、
「あ! ごめんね、この前荘原さんに総合体育館でバスケデートしたって聞いて、ちょうどここの前を通ったから“もしかしたらいたりして”なんて冗談交じりに覗いてみたの。そしたらビンゴで、しかも荘原さんもプレイしてるから驚いちゃって」
 と説明する根津さん。
「あ、九条先輩、こんにちはー! いつもお世話になってますー」
 転がったボールを拾っていた九条先輩にふたりが頭を下げ、「私たち街に買い物に行った帰りで」「先輩、私服おしゃれですねー」なんてしゃべっている。
「キミらも体育館の利用料払うなら、今からしごこうか?」
「えー、どうする? お願いする?」
 先輩の言葉に笑い合って相談しているふたりの傍らで、私も空気を読んで作り笑い。
でも、なんだかとてもモヤモヤした。根津さんに言ったのは私だけれど、なんでこの日のこの時間に偶然が重なったんだ、と思ってしまう。私と九条先輩の時間が邪魔されたようで、おもしろくない。
「ほら、でも恋人同士の邪魔したら悪いよ」
「そうだねー、ここで入っちゃったら、うちら空気読めてないの確定だし」