少し力んでしまい、沈黙にあとから恥ずかしくなる。私は胸の前まで上げてしまった拳に気付き、ゆっくりと下ろした。
「えーと……だから、願掛け的な意味合いもあって、勝手に熱くなってイニシャルを全員に入れちゃったんです……。ちょっと引かれるかもしれないですけど」
 言い訳のように付け足した私を見て、九条先輩が口角を上げる。
「わかった。あれだ」
「え?」
「堅苦しいんじゃなくて……」
 手が差し伸べられ、私はきょとんとした。あぁ、そういえば手を離してそのままだったと、その手のひらに自分の手をのせる。握られてふたりの間に下ろされると、
「澪佳は、根っからの“いい子”なんだな」
 と言われた。
 つないだ手は先輩のほうが冷たいのに、なぜかつなぎ目から温かくなっていく感覚があった。そしてそれは、心にも伝染していく。
 あぁ、嬉しいんだな、私は。
 その自覚が、ゆっくりと体と心に沁みわたっていく。
「あ、さっき、話してて思ったんですけど、マネージャーのやりがいって、先輩の夢のやりがいとも共通するところがありますよね」
「あー……たしかに」
「ハハハ」
「笑うとこか?」
 なんでだろう、先輩と一緒のことや共通することが増えていくのが楽しい。先輩がいろんな表情を見せてくれるのも面白い。
 バスの音が近付いてきた。握られた手がまたすぐに離され、その手のひらがひんやりと寂しくなる。
今日の15分は、今までで一番短く感じた。



「今日もお出かけ? 先週もじゃなかった?」
「うん、ちょっと」
 土曜日の午後1時半。家を出ようとすると、お母さんがモコと一緒に玄関まで見送りに来る。
「もしかして、部活? 強化練習かなにか?」
「まぁ、そんなところ」
土日は練習試合とか公式試合に行くことがあるけれど、前もって言っていなかったので、お母さんは首をかしげている。スポーティーな格好だけれど学校のジャージや部活のユニフォームじゃないから、なおのこと不思議なのだろう。
「ふーん……マネージャーも大変ね。気をつけてね」
「うん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 べつに嘘を言ったわけではないけれど、なんとなく心苦しい。