「気持ちです! 受け取ってください」
「なに、そのバレンタインみたいな言い方。何の気持ち?」
 先輩が吹きだし、私は確かにそうだと恥ずかしくなる。
「や、あの……部でお世話になってるので……」
「逆じゃない? 澪佳はマネージャーで部全体の世話をしてるわけだし、あと俺の疑似交際にも付き合わせてるわけだし」
 そう言われれば、そうとも言える。でも、そういうのじゃなくて、私は……。
「というか……バスケ、久しぶりにできて楽しかったっていうのもあるし、あと……先輩の夢を応援したいなとも思っていて、そういう諸々の気持ちで……」
「夢って、この前話したやつ?」
「……はい」
 先輩は包みからリストバンドを取り出し、片手でクルリと回して見ている。そして、刺繍に気付いて口を開いた。
「あ、イニシャル」
「はい、入れました」
「プロってるね、あんた」
 先輩は感心した声でそう言って、そのリストバンドを手首につけ、ちょうどイニシャルの刺繍を上にした。
 ちょうど土曜日に家に帰ると、ネットで頼んでいたものが届いていた。だから、その日の気持ちを込めて、刺繍を施したのだ。まじまじと見られると、少し恥ずかしい。
「俺のもだけど、部員みんなの分って、すごい根性と手間だな」
「いえ、ショップで入れてもらうと割高だったし、ただ私の趣味で勝手にやっただけなので……」
「相当好きじゃなきゃできないだろ、バスケもバスケ部も。顧問にもマネージャーにも愛されて、あいつらはホント感謝しなきゃだな」
「…………」
 その言葉で、ちょっと胸が熱くなった私は、ためらいがちに口を開く。
「あの……最初は、バスケが好きだけどできないから、って理由でマネージャー始めたんですけど」
「うん」
「なんていうか、みんなをよく観察したり、みんなを応援したり、みんなをバックアップしたりできるマネージャーの仕事、本当にやりがいがあって。感謝されたらそりゃあ嬉しいですけど、それだけじゃなくて、勝ったときのみんなの笑顔を見たとき、一緒に感動できる喜びがあるんです」
「ハ……本当にマネージャーの鏡だな」
「だから、このマネージャー最後の年に、みんなのためにも自分のためにも、1試合でも多く勝ちたいんです。勝たせたいんです、男子も女子も」