翌日火曜日の放課後、体育館へ続く廊下で、また背後から声をかけられた。振り返らなくてもわかっている。政本君だ。
「おつかれ。今日も早いね」
「九条先輩からの個別レッスン、10分でもとても貴重だからな」
政本君は本当にバスケが好きみたいだ。ちょっと前まで中弛みしていた部員たちにも明るく発破をかけ、頑張って盛り上げようとしていたし。
「なぁ、荘原。彼女だから、たぶん知ってるとは思うけどさ」
隣を歩きながら、政本君が急に小声になった。そして、手でメガホンを作り、
「九条先輩、足怪我して、大学ではもうバスケやってないって聞いた?」
と、私の耳に近付けて尋ねてきた。周りには誰もいないというのに。
「あー……」
なんて答えようか間延びした声を出していると、
「こんちは」
と、体育館の入口から声がした。見ると、九条先輩が裏門ルートから体育館に着いたところだった。
「わ! こんにちは、九条先輩!」
そして、気を使ったのか、跳ねたように私から離れた政本君。先輩に駆け寄り、
「今日も、ちょっと個人的に指導してほしいところがあるんですけど」
と拝んでいる。
「また?」
「そう言わずに、お願いします」
「ウソ、いいよ」
先輩がそう言うと、政本君は「すぐ準備します!」と言って私から鍵を受け取り、部室へ走っていく。
「仲いいね」
政本君がいなくなると、体育館の入口前で、先輩がわずかに微笑む。
「そんなことないです。たまたまです」
「やっぱり、アイツにだけ本当のこと話せば?」
「……いいんです」
中へ入ってすぐのところでシューズを履くためにしゃがみこむと、先輩もすぐ横で履きはじめ、互いの目線の高さが一緒になる。距離の近さに一瞬ひるんでしまい、続けて、
「成就させなくてもいい恋っていうのもあるんです。先輩と同じで」
と靴紐へ目を落としながら言った。
「俺はともかく、そっちは同い年なのにもったいない」
「歳は関係なくないですか?」
「あるよ」
顔を上げると、先輩と目が合った。アップの顔と、その目に滲んだ憂いにドキリとした私は、すくっと立ち上がる。なんだろう、胸がざわざわする。
「先輩、よろしくお願いします!」
着替えを終えて体育館に入ってきた政本君の声に、空気の色が一瞬で変わった。すぐに倉庫へ向かいボールを手に取った彼は、コート下からこちらへぶんぶんと手を振る。
「おつかれ。今日も早いね」
「九条先輩からの個別レッスン、10分でもとても貴重だからな」
政本君は本当にバスケが好きみたいだ。ちょっと前まで中弛みしていた部員たちにも明るく発破をかけ、頑張って盛り上げようとしていたし。
「なぁ、荘原。彼女だから、たぶん知ってるとは思うけどさ」
隣を歩きながら、政本君が急に小声になった。そして、手でメガホンを作り、
「九条先輩、足怪我して、大学ではもうバスケやってないって聞いた?」
と、私の耳に近付けて尋ねてきた。周りには誰もいないというのに。
「あー……」
なんて答えようか間延びした声を出していると、
「こんちは」
と、体育館の入口から声がした。見ると、九条先輩が裏門ルートから体育館に着いたところだった。
「わ! こんにちは、九条先輩!」
そして、気を使ったのか、跳ねたように私から離れた政本君。先輩に駆け寄り、
「今日も、ちょっと個人的に指導してほしいところがあるんですけど」
と拝んでいる。
「また?」
「そう言わずに、お願いします」
「ウソ、いいよ」
先輩がそう言うと、政本君は「すぐ準備します!」と言って私から鍵を受け取り、部室へ走っていく。
「仲いいね」
政本君がいなくなると、体育館の入口前で、先輩がわずかに微笑む。
「そんなことないです。たまたまです」
「やっぱり、アイツにだけ本当のこと話せば?」
「……いいんです」
中へ入ってすぐのところでシューズを履くためにしゃがみこむと、先輩もすぐ横で履きはじめ、互いの目線の高さが一緒になる。距離の近さに一瞬ひるんでしまい、続けて、
「成就させなくてもいい恋っていうのもあるんです。先輩と同じで」
と靴紐へ目を落としながら言った。
「俺はともかく、そっちは同い年なのにもったいない」
「歳は関係なくないですか?」
「あるよ」
顔を上げると、先輩と目が合った。アップの顔と、その目に滲んだ憂いにドキリとした私は、すくっと立ち上がる。なんだろう、胸がざわざわする。
「先輩、よろしくお願いします!」
着替えを終えて体育館に入ってきた政本君の声に、空気の色が一瞬で変わった。すぐに倉庫へ向かいボールを手に取った彼は、コート下からこちらへぶんぶんと手を振る。