「ほら、火曜日と金曜日に先輩来てくれてるけど、やっぱり部活中だしみんなの目があるから、ふたりでそんなに喋ってないでしょ? それに、九条先輩の指導は的確だけど厳しいし、あんまり笑ったところ見たことないから、ふたりのときはどんな感じなのかなーって思って」
 たしかにそうだ。もともとクールなイメージだし、少し物腰が柔らかくなったものの、みんなの前であまり多くを語ったり笑顔を見せたりする感じでもない。この前の土曜日は、ちょっと違ったけれど……。
「けっこう話もするし、笑ったり……してくれる、よ?」
 なぜか大いに照れてしまい、しどろもどろになってしまう。けれど、根津さんは顔をほころばせて、
「わー! そうなんだ、やっぱり彼女には優しいんだね。なんか、噂だけ大きくなって、本当のところどうなんだろうって思ってたけど、ちゃんと付き合ってる感じで素敵」
 と、褒められてるのか失礼なのか、よくわからないことを言った。
「ハ……ハハ」
 北見さんとはまた違う性格の根津さんは、ちょっと恋愛脳というか、ロマンチストっぽいところがある。顔も中身も“女の子”という感じで、こういう子がモテるんだろうな、と思ってしまう。
「デートとかもしてるの?」
「あぁ、うん。この前は総合体育館に行って……」
 そこまで言って、ハッとして手を止める。案の定、根津さんは、
「体育館? ……で、なにしたの?」
 と尋ねてきた。まだ、後藤さんの転校のことも、私が代打をして大丈夫か先輩とバスケをして確認していることも、誰にも言っていない。だから、慌てて誤魔化す。
「先輩のバスケを見てただけ」
「そうなんだー、すごいね! 休みの日までバスケなんて。そりゃ、あんなに上手なわけだよね」
 根津さんは感心したように深く頷く。九条先輩は、膝を故障したことを公には言っていない。男バスの何人かにはもしかしたら気付かれているのかもしれないけれど、根津さんたちは知らないようだ。
 土曜日に先輩に聞いた話がよみがえってきて、少しだけ胸が痛んだ気がした。
「ボトル、半分持つよ」
 洗い物が終わると、根津さんが、いくつものボトルが入ったカゴのひとつを持ってくれる。私はハンドタオルで手を拭き、
「ありがとう」
 と微笑んだ。
「あれ? なにか落ちたよ? キーホルダーかな?」