翌日土曜日の昼下がり、私と九条先輩は地域公共の総合体育館に来ていた。昨夜、先輩から、
『明日14時、総合体育館に集合』
 と、デートのお誘いには程遠い業務命令のようなメッセージがきたからだ。
「昨日の今日で、急すぎませんか?」
「日曜は大会やら行事やらで、体育館使わせてもらえないことが多いから」
「いえ……曜日の話ではなくて……」
 指示されたとおりストレッチをしながら、うなだれる。先輩は、午前中にコートを予約してくれていたらしい。
 体育館では、少し離れたコートで10人くらいの中年女性たちが、ソフトバレーにいそしんでいる。サークル活動だろうか、同じユニフォームで活気がすごい。私たちの他にはその団体だけのようだ。
 それにしても……。
 すでにストレッチが終わって、軽くドリブル練習をしている九条先輩を見る。
疑似交際の件にしても、お試しで私のバスケの面倒を見ることになった件にしても、先輩はわりと強引だ。そして、どちらも……。
「藍川先生を困らせたくないから、か……」
「何か言った?」
 私の呟きを拾った先輩に、「いえ」と返す。
どれだけ“千早”が大事なんだろう。もしかして、高3のときにめちゃくちゃバスケを頑張っていたのも、先生のためだったり、先生にかっこいいところを見せるためだったりしたのだろうか。
そんなことを思ってしまい、少しモヤモヤした気持ちになる。
「あのさ、一応確認しておきたいんだけど、一番直近では、いつ発作が出たの?」
 ストレッチが終わって伸びをしていたとき、先輩にそう言われ、
「中3の運動会です。発作というか……息苦しさで倒れました」
 と答える。そんなに前なの?という顔をされるのが見たくなくて、私は体育館の床に視線を落とす。
「どんな状況で?」
「……本番当日、学年全員参加のクラス対抗リレーで……私は最後から3番目くらいだったんですけど」
 話しながら、じわりと冷汗が出てきた。思い出したくない過去だからだ。
「バトンを次の人に渡す直前で息ができなくなって、うずくまるように転んでしまったんです。だから、もちろんうちのクラスはビリで……」
「それはべつにいいんだけど、そのあと病院行ったの?」