笑って答えると、北見さんは「そっか、ありがと」と言って、女バスの子たちのほうへと戻っていった。Tシャツにハーフパンツの部活姿に着替えた生徒たちが、外の部室棟から体育館へとまばらに集まってくる。
この第1体育館は、バスケ部とバレー部で真ん中で分けられ、半分ずつ使用している。そして、私たちバスケ部は、一応、男子バスケ部、女子バスケ部と別れてはいるけれど、ウォーミングアップやフットワークなど、最初の練習は男女混合。その後、シュートやドリブル練習、試合練習になると、コートを分けてそれぞれで行う流れだ。
ちなみに男子は13人、女子はぎりぎり5人。顧問は藍川(あいだ)先生という女性教師がひとりで、そしてマネージャーも私ひとりだ。マネージャーは、私の他にもうひとりいたのだけれど、この春に卒業してしまい、私だけになってしまった。
しばらくすると、ランニングやウォーミングアップが始まった。足音が体育館中に地鳴りのように響き、そろえられた掛け声が気持ちを高揚させていく。
私は救急箱とアイシングの準備をしながら、走っている男子バスケ部員たちを見つめていた。
「…………」
 政本君……か。
 さっき名前の出た彼は、バスケ部のエースだ。私と同じ3年生で、この春初めてクラスも同じになった。でも、だからと言って特別親しいわけではない。教室では挨拶程度だし、他のバスケ部員たちと同じくらいの距離感だ。
 私はただ、斜め後ろの席から彼の様子を見つめているだけ。そう、この体育館で今こうして見ているのと同じように……。
「はい! 集合」
 通る声と大きく手を打つ音が響き、我に返った。遅れてやってきた藍川先生が体育館に入ってきて、バスケ部のみんなを集める。
藍川先生は、社会科教師だけれど、バスケ経験があるということで顧問をしてくれている。たしか、24歳だっただろうか。直毛のショートカットがよく似合っていて、運動神経抜群。小柄な女性ながらも、とてもキビキビしていてかっこいい先生だ。
 男女バスケ部員たちが先生の前にそろい、マネージャーの私は、少し離れたところからその様子を見守る。すると、先生に促されて、誰かが体育館に入ってきた。
 あれ?
 みんながそんなきょとんとした空気を出した直後、すぐに3年生だけがワッと沸く。
「九条(くじょう)先輩!」