次の金曜日は、部活中は曇り空だったけれど、帰り際になってから急に土砂降りになった。先日梅雨入りが発表されてから折り畳み傘は常備しているものの、きっとバス停に向かうまでに、横雨で濡れてしまうだろう。
倉庫で最後の点検をしながら、体育館に打ちつける雨の音にそう思っていると、
「あんた、まだ残ってんの?」
背後からかけられた男の声に「わっ」と驚いた。この前は政本君だったけれど、今度は九条先輩だった。
「……はい。今日はバスケ部が最後だったんで、用具と照明の最後の確認をしてて」
「真面目」
九条先輩は鼻を鳴らし、つかつかと中に入ってきた。そして、おもむろに拭いたばかりのバスケットボールを手に取る。
「帰らないんですか?」
「雨がひどいから、千早が送ってくれるって」
九条先輩はボールを弾ませながら、倉庫から体育館へと出る。
「……よかったですね」
そして私がそう言うと、振り返り、
「あんたも一緒。バス停同じだって話したら、まとめて送ってやるって」
と言った。
「え? いや、そんな、悪いですよ。私、傘持ってるし」
「いいんじゃない? 彼女なんだから。千早もそれわかってて言ってくれたんだろうし」
「……彼女……」
微妙な気持ちだ。九条先輩は藍川先生が好きだというのに、どういうつもりで話しているのだろうか。
「仕事済ませてくるから、ここでしばらく待ってろだって」
「……わかりました」
九条先輩は、待ち時間を潰すためだろうか、そのままドリブルをして軽やかにレイアップシュートを決めた。私はそれを見て、あいかわらずきれいな動きだな、と感心する。
「はい」
すると、シュッとこちらへボールが飛んできた。驚きながらもキャッチした私は、
「え?」
と言ってたたずむ。
「1対1(ワンオンワン)」
「や、私は……」
「暇つぶしに付き合ってよ」
そう言うや否や私のボールを奪いにきた先輩。その顔が眼前に来て、私はとっさに先輩の伸ばされた手をかわした。体勢を低くして、ひらりと体を翻す。
「やるね」
九条先輩が面白そうに口角を上げた。私は、気付けばドリブルをしていた。もうずいぶんやっていないのに、体がバスケを覚えている。
「みんなのプレーを毎日観察してるからだと思います」
「見るのとやるのじゃ違うだろ」
倉庫で最後の点検をしながら、体育館に打ちつける雨の音にそう思っていると、
「あんた、まだ残ってんの?」
背後からかけられた男の声に「わっ」と驚いた。この前は政本君だったけれど、今度は九条先輩だった。
「……はい。今日はバスケ部が最後だったんで、用具と照明の最後の確認をしてて」
「真面目」
九条先輩は鼻を鳴らし、つかつかと中に入ってきた。そして、おもむろに拭いたばかりのバスケットボールを手に取る。
「帰らないんですか?」
「雨がひどいから、千早が送ってくれるって」
九条先輩はボールを弾ませながら、倉庫から体育館へと出る。
「……よかったですね」
そして私がそう言うと、振り返り、
「あんたも一緒。バス停同じだって話したら、まとめて送ってやるって」
と言った。
「え? いや、そんな、悪いですよ。私、傘持ってるし」
「いいんじゃない? 彼女なんだから。千早もそれわかってて言ってくれたんだろうし」
「……彼女……」
微妙な気持ちだ。九条先輩は藍川先生が好きだというのに、どういうつもりで話しているのだろうか。
「仕事済ませてくるから、ここでしばらく待ってろだって」
「……わかりました」
九条先輩は、待ち時間を潰すためだろうか、そのままドリブルをして軽やかにレイアップシュートを決めた。私はそれを見て、あいかわらずきれいな動きだな、と感心する。
「はい」
すると、シュッとこちらへボールが飛んできた。驚きながらもキャッチした私は、
「え?」
と言ってたたずむ。
「1対1(ワンオンワン)」
「や、私は……」
「暇つぶしに付き合ってよ」
そう言うや否や私のボールを奪いにきた先輩。その顔が眼前に来て、私はとっさに先輩の伸ばされた手をかわした。体勢を低くして、ひらりと体を翻す。
「やるね」
九条先輩が面白そうに口角を上げた。私は、気付けばドリブルをしていた。もうずいぶんやっていないのに、体がバスケを覚えている。
「みんなのプレーを毎日観察してるからだと思います」
「見るのとやるのじゃ違うだろ」