疑似交際開始から2週間経ったその日も、例のごとくバスケの話をしていた。けれど、夜7時過ぎの薄暗さの中、いつもはここを通らないはずの人が、目の前を通り過ぎざま立ち止まり、私たちは会話を止める。
「あ……おつかれさまです」
 それは、政本君だった。
「おつかれ」
九条先輩が短く返すと、政本君の目が私と九条先輩の真ん中に落とされる。それがつないだ手だと気付いた私は、無意識にパッとその手を剥がしてしまった。
「おつかれさま! まだ帰ってなかったんだ? ていうか、珍しいね、こっち通るなんて」
 そして、いつもより早口で尋ねてしまう。
「あぁ、うん。友達と話してて出るのがちょっと遅くなって。あと、コンビニに寄って雑誌買おうと思ったから」
「そうなんだ! ハハ……」
 私と政本君が喋っていると、隣から視線をチクチクと感じた。九条先輩が、意味深な目で私の横顔を見ているのがわかる。
「ていうか……マジなんだな、噂」
「……え?」
「荘原と先輩」
「……あ、あぁ……」
 ツキンと、胸のどこか深い場所が痛んだ。でも、違うと言うわけにはいかない。私は、自分に言い聞かせるようにゆっくり頷いて見せる。計画どおり私たちの噂は広まっていて、それは喜ばしいことなのだと自分を納得させながら。
「へー……そっか。それじゃ、お邪魔しました。失礼します。じゃーな、荘原」
「うん、バイバイ」
 政本君がいなくなると、バス停はしんとなった。向かいの小さな公園の外灯が、一度消えかけて、またパッと点く。
離した手……またつなぎなおしたほうがいいんだろうか。なんとなく、今日はもうつなぎたくない気がするけれど。……でも、後になって考えると、咄嗟に離してしまって、ちょっと感じ悪かったかもしれない。
少し反省をしていると、先輩が鼻を鳴らす音が聞こえた。
「なるほど……政本か」
 呟いた先輩を、私は瞬時に見る。先輩は顎をさすりながら、「ふーん」と小刻みに頷いていた。
「……なんですか?」
「いや? べつに」
 先輩の、こういう余裕そうでお見通しっぽい態度が嫌だ。年上だから当たり前なのだろうけれど、少し小馬鹿にされている気がする。
「アイツにだけ、本当のこと説明する?」
「いえ、いいです」
「ホントにいいの? 誤解されたままで」
「いいんです」
 少しムキになってしまうと、先輩がふっと噴きだした。