ふてぶてしくても、光るセンスをひとつ持っているだけで、それがチャラになるような感じ。私には、なにもないから……。
 ネガティブに飲みこまれそうになり、私はパッと顔を上げる。すると、薄暗さの中、信号で停まっている軽乗用車が見えた。見覚えのあるその車は、たしか藍川先生の車だ。
 私は目の前を通り過ぎるときに目が合ったら会釈をしようと、信号が青に変わって発進したその車を目で追う。けれど、近くまできてやはり藍川先生が運転していると気付いたはいいものの、その助手席の人影に目を疑った。
九条先輩だったからだ。
「あれ? 藍川先生、男と帰ってる」
「え? うわ、マジじゃん! ていうか、あの人、うちらが1年のときに3年だった先輩じゃない?」
 同時に近付いてきたのは、歩道をこちらの方へ歩いてくる女子生徒ふたりの声。
「あ、ホントだ。見覚えある気がする。なんか、仲良く笑い合ってて恋人同士みたいじゃなかった?」
「元教え子と? うわー、やるね、藍川先生」
「写真撮ればよかったー。みんなに共有したいわー、この情報」
 ふたりは私と同じ車を見ていたらしく、そんな話に花を咲かせながら目の前を通り過ぎていく。
「…………」
 “違います、彼は今OBとしてバスケ部に指導に来てくれていて、先生とは顧問とコーチの間柄なんです”
 私は、友達でもなんでもないその同学年の生徒たちに、心の中で説明した。けれど、私自身彼女たちと同じような印象を持ってしまったことも事実だった。
だって、見間違いじゃなければ、信号待ちのときに、九条先輩が藍川先生の頭をポンポンと撫でていたからだ。
「……えー……」
 彼女たちの声が聞こえなくなってから、私は思いきり狼狽えた声を出した。
 信じられない。……けど、なんか頷けてしまう。
そう思ってしまった私は、眉間をぎゅっとつまんでうつむいたのだった。



 3日後の金曜日、私は部活中の九条先輩を目で追って観察していた。指導の合間に藍川先生と話をしている様子をじっと見ては、九条先輩と目が合いそうになってパッと逸らす。
 それが2、3回続いたからだろう、部活が終わってバス停に着くと、今日はベンチの定位置に座っていた九条先輩が、
「マネージャー、俺のこと好きなの?」
 と聞いてきた。
「いえ、違います。全然」
「あそ。全然、ね」