そこで、無理やり話題を振ってきた北見さん。私は「え?」と言って彼女の顔を見るも、そのアイコンタクトで彼女の魂胆がわかった。すでに北見さんには答えたはずの回答。これは、根津さんの前でするから意味のある質問なのだろう。
 当の根津さんは、何を言ってるの?という慌てたような顔で北見さんを見る。
「ううん、バスケ部員じゃないよ」
「え……そうなの?」
 私たちの茶番のような芝居に、すかさず反応したのは根津さん。明らかに安堵した表情に、私の胸はちくりと痛んだ。
「ねーねー、誰? 誰?」
 そして、調子に乗って聞いてこようとする北見さんに、
「ハハ、内緒」
 と笑って見せたのだった。

 部活後、私は体育館倉庫で用具の片付けと点検をしていた。
今日の練習は九条先輩のいない日だったからか、やはり部員たちの緊張感が少し違った。でも、明らかに前とは意気込みが変わってきている。最近男子も女子も連敗しているけれど、地区予選……もしかしたら本当に期待できるかもしれない。
「…………」
 私はバスケットボールをひとつ手に取り、じっとそれを見つめた。この手触り、この重さ……やっぱり好きだなと思う。
『けっこうきれいなフォームだったから印象に残ってたんだよね』
 ふと、先週金曜日にバス停で言われた九条先輩の言葉を思い出す。倉庫内でひとつきボールをバウンドさせてキャッチした私は、倉庫のドアの隙間から遠く見える、バスケのリングネットを眺めた。
 耳によみがえってくるのは、さきほどまでの練習のボールの音じゃない。小学6年生のときにクラブチームでやっていた試合の音だ。
『澪佳(みおか)ちゃん、シュート!』
『逆転できるよ! 頑張れ!』
 よみがえる仲間の女の子たちの声。弾む息……リズムの狂った呼吸音。
 あ……ダメだ。
 そう思った途端、胸を押さえてうずくまり、持っていたボールが手から離れてコロコロとコートをさまよった。同時にけたたましい試合終了の電子音。
『大丈夫? 澪佳ちゃん!』
 心配して駆けつけてくれる声に紛れて、
『あーあ、またかー』
『仕方ないよ、澪佳ちゃんだから』
 そんなひそひそ声が耳に入る。